今年初めてのウイングフィールド。そしてこれは『ウイングカップ14』の4本目の作品になる。今回の参加作品は7本。これがちょうど折り返しとなる。ここまでの3本もそれぞれ個性的で面白かったが、今回もまた、普通じゃない。だいたいこのタイトルからしてふつうとは言えまい。総合チラシにある作、演出の片山寛都による文章も面白い。漱石の「月が綺麗ですね」から書き起こして、「月」と「好き」が似ているなんていう話の展開に心ひかれる。
今回直前での降板があり、芝居はリーディングスタイルの公演へと変更されたみたいだ。仕方なくこんな不本意な形での上演となったみたいだが、本来の公演形態も気になる。今回の作品でも充分に刺激的な仕上がりになっているから余計に完全版も気になるのだ。片山さんが本来なら作ったはずの世界と今回提示した世界の落差が知りたい。
芝居の稽古の後の居酒屋での飲み会。帰りの電車の中での会話。これは芝居の稽古なのか。中心を担うのはその劇団のふたりの女のやり取り。ひとりは妊婦でもう4ヶ月になることを隠して芝居の稽古に参加している。
子供の頃の秘密基地。ふたりの男の子、そこにやって来た女の子のお話。さらには冒頭に描かれるふたりの女の子のお人形遊び。彼女たちの赤ちゃんにお乳をあげる。「私の赤ちゃん」とお互いが言う。ひとりは死者。それらの断片が居酒屋の会話と何度か交錯していくドラマがテキスト片手にしたリーディングで描かれる。みんな同じの真っ黒な布を被っただけの衣装は暗い照明に存在自体も溶け込む。さらには演じる役も固定されずに移ろいゆく。リーディングだから演じているというよりテキストを読んでいる。誰が誰のセリフを読んでも変わらない。役は微妙にリレーされる。
舞台の幕開けは倒れたままの人たちの姿から。彼らは死んでいるのか。いや、そこからひとりひとりがゆっくり立ち上がり、話が始まる。ガザ地区での戦闘のニュースが何度となく流れる。サバスとイスラエルの交戦によってたくさんの死者が出る。
平和な日本と戦闘が続くガザ。こことあそこ。この芝居が提示するものは明確にはならないからはぐらかされた気分にもなる。映像で何度か提示する黄色い「ちょうちょ」も何を象徴するかは明確にならない。だけど死は確実に伝わる。ガザにもここにも、たくさんの死がある。生と死の対比というラインも明確だ。できるなら赤ちゃんの誕生も描いて欲しかった。
伝えたいことは必ずしも明確にはならないけど、提示されたイメージの連鎖は刺激的で最後まで緊張が持続する。