なんと12年振りになる『踊る大捜査線』の新作である。しかも織田裕二ではなく柳葉敏郎が主演するスピンオフ2部作。こういう展開は思いもしなかった。無謀な企画と言われても仕方ない。そして僕らはそんな挑戦を目撃する。
定年を前に退職した室井さんが、青島との叶わなかった約束を果たすための戦いを描く。レインボーブリッジを封鎖出来なかった事件から18年。再びあの事件がよみがえる。犯人グループが刑務所から出てくる。さらにはかつての事件での主犯(小泉今日子!)は無期懲役だが、彼女が獄中で出産した娘が室井のところにやって来て、室井は行き場のない彼女を保護する。
明らかにこれでは前編である。お話の途中までで映画は終わる。単独では1本の映画にはならない。それどころか、2本でも完結しない。これはTVシリーズから続く作品である。
だけどあまりにそのタッチは今までとは違うから驚く。これはあくまでも室井慎次の話として完結する。登場人物も少ない。事件は起きるが、解決しないどころか、展開すらしない。描かれるものはお話のとっかかりでしかない。だが気にしない。堂々たるタッチでお話は綴られる。全く端折ることはない。ゆっくり確かな足取りで映画は進行する。
本編の主人公青島は登場しないけど、彼との約束がお話の根幹にあるから不在の青島の面影がやがてお話の中心を担うことだろう。室井の断念と決着。これは事件を解決するためのドラマではない。この先、これは約束の答えに迫る映画になることだろう。
答えが欲しいのではない。その答えによって何が出来るのか、ということだ。子どもたちをお話の核心に据えて彼らの室井に向けた眼が答えになる。何が出来るか、ではなく、何を伝えることができるのかが大事になる。未来のために彼が出来ること。それが描かれる。
『踊る』が描こうとしたものに、この2作品で本広克行監督が決着をつける。11月が楽しみだ。