習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

猫の会『ありふれた話』

2016-06-26 08:46:16 | 演劇

 

これは気持ちがいい。なんともチャーミングな芝居だ。1時間という上演時間もいい。この内容にぴったりのサイズだ。もう少し見ていたい、と思わせるところで予定通り終わる。なんだか心憎いくらいだ。これ以上長くなれば冗長になる。そうなるとせっかく作り上げたものがすべておじゃんだ。だから、ここで終わる。

 

憎たらしいくらいにスマートだ。でも、芝居自体は、それほどスマートじゃぁない。どちらかというと朴訥とした芝居で、素朴。東京の劇団なのに、スマートじゃない(それって、偏見か?)というのが、いいなぁ、と思う。おしゃれでかっこいい芝居なんか、どこにでもある。どんくさい芝居ならもう枚挙に暇はないほどだ。だが、これはそのどちらでもない。その立ち位置はなんだか、とても微妙なのだ。そんな微妙さ、それが実に味があり、なんだかいいのだ。

 

身内の葬儀に参列したその帰り。路地裏で、へんな猫と会う。なんとその猫は人の言葉をしゃべるのだ。もう、ありえない。で、その猫からお守りを貰う。いらねぇ、と思うけど、それを粗末にすると大変なことになるぞ、と脅される。さらには、電車の中で昔のクラスメートと偶然会う。彼女は夫の浮気を暴いて、相手の女から慰謝料を巻き上げたらしい。なんだか鼻息が荒い。で、なぜか、ふたりは意気投合して、2人はそのまま旅に出ることになる。

 

チラシには「気まぐれな不倫旅行」とある。「首都圏ローカルな地名や国道、交通手段がたくさん出て」くるのが楽しい。聞いていても、その地理感は僕にはつかめないけど、なんとなく身近なところをぐるぐる回っている感じが伝わり、東京といいながら、そのはずれから、埼玉、千葉、せいぜい茨城を夢見るくらいのスケール。熱海まで行きたいけど、箱根で我慢するとか。冗談で新潟からロシアまで、とか言うけど、もちろんそれは本気じゃないし。

 

ここではない、どこかへ。今ある現実から遠ざかりたい。会社のお金を使い込み、もう帰るところなんかない、というシビアな現実も(もちろんファンタジー的な要素も)垣間見えるけど、そんなことも、こんなことも含めて、芝居の全体はささやかな小旅行として収まるのがいい。

 

作、演出の北村耕治さんとその仲間たちは、この作品を持って、大阪、東京から松本、仙台、石巻へと回る。なんだか、いいなぁ、と思う。こんな小さな話がこの10日ほどの間で日本中を駆け巡るのだ。(まぁ5か所なんだけど)ぜひ、僕だけではなく、ひとりでもたくさんの人たちに目撃して欲しい、と思った。

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『10クローバーフィールド... | トップ | 大阪新撰組『迷路』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。