「家族に疲れた」というコピーが目を惹く。50代に入ったばかりの主婦が主人公だ。20歳になった娘はもう親の手を離れようとしている。仕事ばかりの夫は、彼女にかまわない。でも、何があるというわけではない。平穏な日常生活の繰り返しだ。今までもそうだったし、今だってかわらない。だけど、なんとなく憂鬱。そんな憂鬱と向き合い、彼女の心の動きを静かに描く。
これを読みながら、なぜだか、山田太一の傑作『岸辺のアルバム』を思い出していた。幸福なはずの家族が壊れていく姿を描くというストーリー上の共通項だけではない。この静けさがいい。70年代に作られたドラマと現代を描くこの小説とに共通する虚無感。主人公の主婦は目の前に展開する信じられない出来事に戸惑ったり、驚愕するわけではない。それすらも静かに受け入れていく。今まで何の疑いもなく受け入れたきたことが、静かに崩れていく。それを不安に思いつつも受け入れていく。そのうちに、自分が変わっていく。変わらざるを得ない。
夫の秘密、同窓会で再会した親友の驚くべき変化。(整形で顔かたちが変わっているのだ! もちろんそれだけではないけど、まずそこに驚くところから始まる)お話はまだ序盤(300ページ越えの100ページほど)だからこの先どうなるのかはわからないけど、久しぶりで新作小説を読み始めて、ドキドキしている。