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映画・演劇のレビュー

『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』

2020-05-17 09:48:23 | 映画

生真面目な郵便配達夫が主人公だ。無口で、不愛想。淡々と仕事をこなす。妻に死なれて、幼い息子を手放す。ひとりになる。でも、感情を表に出すことなく、今まで通りに黙々と仕事をこなして日々を過ごす。新しい出逢いがある。そんな彼のことを好ましいと思い、偏屈な彼を理解してくれる女性と出逢い再婚する。やがて娘も生まれる。だけど、彼はそんな幸せな日々に怯えている。以前のような哀しみ、不幸がまた起こることを恐れたのか。仕事が終わってから、毎日、石を集めた。それで娘のために宮殿を建てる。なんでそんなものを作ろうとしたのか。1日、10時間働く。仕事の後、さらに10時間宮殿作りに励む。それはむちゃだ。でも、そんな日々を繰り返す。とんでもないことを何年も続け、それはすこしずつ姿を現す。

何のために、何を求めて、するのか。誰にも理解できないし、村人はその愚かさを笑う。だけど、妻だけは受け入れる。やがて、成長した娘は父の手伝いをする。何十年もかけて、完成が近づく。目に見える壮大な姿を見て、人々は驚嘆し、彼を受け入れる。だけど彼はそんな周囲のリアクションを気にもしない。大事なことは、娘のことだ。でも、彼女は病気で死ぬ。娘が死んでも彼は止めない。黙々と作業を続ける。

一体何が彼をそこまで突き動かすのか。わからない。地位や名誉とは無関係だ。他人の評価なんか一切眼中にはない。でも、すべてを犠牲にしてもこれを成し遂げる。映画は、そんな彼を凄いと称賛するのではない。ただただ淡々と描いていくだけだ。共感するのではない。ありのままを提示しただけ。この不器用な男の孤独な生き様を映画はみつめる。僕はそんなこの映画を好ましく思う。事実を事実として提示する。あとは、見た人が自由に考えたらいい。もちろん、監督であるニルス・タベルニエ(なんと彼はあのベルトラン・タベルニエ監督の息子らしい。)には強い意志があり、その覚悟のもとでこの作品を作っている。そんなこと見たならすぐにわかることだ。娘のアリスとの交流を描く部分がすばらしい。こんなふうにして親子がつながれるなんて理想だろう。それがこの宮殿(理想宮)につながる。


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