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映画・演劇のレビュー

Iaku『車窓から、世界の』

2016-12-14 21:43:12 | 演劇
とても重い話をさらりと見せている。さらりと見せることで、重い問題をその重さのまま見せきることに成功した。これは簡単そうに見えて実は一番難しいスタンスなのだ。そんなこと重々承知の上でそこにチャレンジしている。脚本を書いた横山拓也さんは、実に丁寧にこの切り口からお話を展開する。それをいつものパートナーである演出の上田一軒さんが力むことなく、ふつうに抑えたさりげなさで見せる。これはそんなコンビネーションの見事さのなせる業だ。



重い問題をチカラコブ作って、渾身の作品として見せるテーマ主義の作品なら簡単だ。そんなふうにメッセージとして出来事を描くと、わかりやすくて安心できる。だが、つまらない。嘘くさいし。それは彼女たちの命の重さを損なうことになる。



3人の女子中学生が手をつないで駅のホームから特急電車に飛び込んで、死んだ。なぜ彼女たちが自殺しなければならなかったのか、その理由を描くわけではない。芝居の中に彼女たちは一切出てこない。(チラシには彼女たちが飛んでいる写真が載っている!)



その事実をどう受け止めたならいいのか。わからないけど、それをまず、受け入れるしかない。それを家族ではなく、周囲の人たちの目線から描く。第3者でしかないけど、でも、その戸惑いは同じだ。彼女たちの「お別れ会」に向かうための電車のホームでお話は展開する。事故(それがまた、人身事故なのか、はわからない)で電車が止まっている。



彼女たちが自殺したこの駅での、運転再開までの時間がこの芝居のすべてだ。彼女たちのひとり(3人は別々の中学)のクラス副担任。その彼氏。ふたりが電車を待っているところから始まる。ホームには彼女たち以外に人影はない。いや、雨に濡れながら、ホームの先端でひとりの男がいる。雰囲気が怪しい。駅員を呼びに行く。ふたりの喪服姿の女がやってくる。同じようにお別れ会に向かう客だ。登場人物は以上の6人だけ。



駅員は実はあの日、特急を運転していた運転手。怪しい男は彼女たちの自殺のきっかけとなるマンガ(同人誌)の作者。あの日から2週間ほど経つ事故現場となったホームで、今もまた同じように電車が止まっている1時間ほどの時を背景にして、事件にかかわった見知らぬもの同士が、たまたまここで出会う。だが、事件の真相を詳らかにするわけではない。当事者たちのいない場所で、何がわかるわけでもない。しかし、彼らの中で何かが動き出す。その瞬間までの長い待ち時間が描かれていく。



命の意味とか、生きること、死ぬこととか。これはそんなことがいいたいわけではない。わからないものを、わからないままに、掬い取っていく。漠然とした「死」という事実を前にして、よくわからないもやもやしたものと向き合う。まるで、エアポケットに嵌まり込んだような、空っぽの時間が目の前に現出する。それはタイトルにある車窓から見えた世界のように、実体はあるようでないような危ういものだ。この芝居は、それと向き合う90分である。
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