習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ボクの妻と結婚してください』

2016-12-14 21:35:13 | 映画
織田裕二の新作である。先日の福山雅治の新作に続いてこちらも興行的に苦戦している。今、スターが主演する映画は、従来のように、それだけで簡単にヒットするという図式が崩れている。それは日本映画だけではなく外国映画でも同じだ。トム・クルーズでもダメなのである。『ジャック・リーチャー』があれだけ面白かったにもかかわらず。



そんな中で、織田裕二も興行的には惨敗した。しかし、そんなこととは裏腹に作品は実によくできている。以前TV化された企画でなんだか期待薄の映画で見るつもりはなかったのだが、たまたま時間があったので見たら、とても面白くて感動した。こんな嘘くさく、ベタな話がそうはならなかったのは、三宅監督の誠実さと織田裕二の力ではないか。(台本も実に上手い)



45歳で末期がんの宣告を受け、余命半年と言われたならどうするか。子供はまだ12歳で小6の受験生。妻は40前後。人生はまだこれから、という時期である。TVの構成作家としての仕事も今が一番充実していて、乗りに乗っている頃で、これからもっともっと自分らしい取り組みができるはず。



そんな時、死の宣告を受けた彼は、残された時間で何ができるのかを考える。本当ならパニックになるはずなのに、とても冷静で、これはすごく理想的。残された時間がない、という現実を受け入れなくてはならないと、理解したからだ。



そこで彼のしたとんでもない選択。それがこの映画のタイトルだ。この「そんなばかな、」には妙な説得力がある。いや、むしろ彼らしい、と言える。こんなバカな企画を信じてやり遂げようとする夫を妻はきっちりと支える。その図式がこの映画の成功のカギとなる。ラストの謎解きの部分がいい。結局最後まで彼はわがままで、そんな彼を妻はずっと支え続けていたのだと気づく。(しかも、けなげにも12歳の息子までがそれに協力する!)



人生最後のイベントを成功させたい。自分が死んだあと、妻と息子を幸せにするための突拍子もない企画。妻の再婚相手を探すこと。これはファンタジーでしかないけど、みんなが協力したなら、こういう夢を実現することも可能なのだ、と信じさせてくれる。



キャスティングがすばらしい。だから、この映画は嘘くさくなくなったのだ。バカな男を演じている主人公織田裕二が、とてもいい。こんな無茶な男を見事に演じた。そんな無茶に付き合う妻を吉田羊。息子もいい。この3人家族が理想の家庭を実現してくれる。そこに、原田泰造の新しい夫候補が加わり、しかも、この「いいひと」がでしゃばることなく、ひっそりと彼らと付き合う、という図式。映画全体がとてもさらりとしたタッチで作られてあり、むちゃくちゃなお話に無理のない説得力を与えた。『阪急電車』の三宅喜重監督のここまででの最高傑作となった。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『五日物語』 | トップ | Iaku『車窓から、世界の』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。