習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

虚空旅団『野を焼く』

2006-09-17 23:27:16 | 演劇
 田舎のおばあちゃんの住んでいた家に帰って来る。そこは、今では祖母も亡くなり、空き家となっている。都会の暮らしに疲れてしまい、ここで静かに過ごしたいと心から願っている30代半ばの女性が主人公だ。

 彼女がひとり静かに田舎で暮らす日々が描かれていくのかと思ったが、すぐに彼女がここに来た理由をめぐる物語が繰り広げられる。ちょっと展開が早いなと思った。もっと何もない時間をゆっくりと見せた後、そこに話を持ってきても良かった気がする。彼女をひとりにさせる時間を周囲は与えてくれない。隣家のおばあさん、近くに住む友人、畑を貸している男女、そして町からは唯一の身寄りである兄までやってくる。

 彼女は中学の教師で同僚と不倫をし、二人でここに逃げてくるつもりだったのに男は約束の場所に来なかった。もちろん理由はある。家を出るとき、彼の妻が飛び降り自殺をして昏睡状態にあるからである。

 主人公とその友人、さらには畑を借りにやってくる女と三つの不倫話が描かれていくのはちょっとやりすぎかと思うが、それくらいにそういう出来事はこの世にごろごろあるということか。何も目新しいことはない。ただ彼らはその事実と真剣に向き合い、傷ついている。この芝居はそういう出来事をしっかり追いかけつつも、まずこの田舎のおばあちゃんの家という安らぎの場所自体を提示することを目的としている。そこが素晴らしい。

 ストーリーではなく、心象風景を見せていくことを大事にする。縁側で話をし、意味もなくぼんやりする。そんな時間を通して、ゆっくりと癒されていく姿を見せたいのだ。生きていくことに疲れた身体を休ませてくれるそんな場所があるということ。もちろん現実には、そんな場所などなかなかないだろう。でも、この芝居にはそれがある。そんなささやかな風景と時間を丁寧に見せてくれる作品である。

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