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映画・演劇のレビュー

エレベーター企画『K-PAX』

2006-09-18 11:48:14 | 演劇
 医師と患者をリバーシブルな存在として設定するというアイデアが秀逸である。白衣を脱ぐと、医師は黒装束の患者となる。誰が病気で、誰がそうでないかなどという境界線はどこにもなく、真実と嘘との境目も実に曖昧だ。原作ではひとりの医師を、この舞台では登場するすべての人物に設定している。そして、彼らと自分の事をエイリアンだ言い張る主人公を対峙させるというスタイルで劇は展開していく。

 K-PAXという星からやってきた彼は何のためにここに来たのか。その目的は、とても曖昧だ。彼は普通に話をし、外見もまた普通の人間としか見えない。彼がエイリアンだという根拠はどこにもないのだ。医師たちにとって、彼はただの精神異常者でしかない。だが、彼が語る話はとんでもないことであっても、すべてが真実である。

 彼と向き合う医師たち、患者たち、そしてそこにルポライターの女性が関わってくる。彼女の目を通して、男の真実が見えてくるという構造になっている。

 外輪さんはいつもの「エレベーター企画」でのスタイリッシュな空間造形と語り口を通して、とてもわかりやすいドラマを感動的に見せてくれる。今回は、春の演劇祭りの30周年企画として立案された頼まれ仕事であるが、エレベーター企画らしさは損なわれることはない。単純な答えは用意されていない。主人公の心の闇をしっかり描いて、その中へとわれわれ観客を突き落としてくれる。

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