
Netflixで配信がスタートしたメキシコ映画『ざわめき』が凄い。この映画の話を書きたかったのだが、連続してこれを見てしまった以上これを書くしかない。同じような話の映画があるな、と気になっていた映画である。それがこの『母の聖戦』なのだ。2本とも同じようにメキシコの誘拐ビジネスを描く映画だ。誘拐された娘を探し出す母親の姿を描く、あらゆる手を尽くすがみつからないというところまではよく似ている。だが、こちらは途中からまさかの展開になる。衝撃的だ。
これはルーマニア出身の女性監督テオドラ・アナ・ミハイの長編劇映画デビュー作。そして2時間15分の大作である。この思いもしない展開に啞然とする。メキシコ北部の町で暮らすシングルマザーのシエロが主人公。彼女の娘が誘拐された。犯人から要求された身代金を支払うが戻ってこない。映画はどこにでもいそうなふつうの母親が、必死になり娘を探し求める姿をドキュメンタリータッチで淡々と描く。警察はまるで役に立たない。だから、やがて彼女は巨大な組織とたったひとりで戦うことになる。そこからのエスカレートが凄い。その姿はもうランボーの女性版だ。これはアクション映画なのか、と思わせるようなストーリー展開で、銃撃戦まである。だが、軍との協力で犯人グループにまで迫るのだが、娘はみつからない。どこまでも執拗に食らいついていく。だが、そんな彼女を組織は見逃すわけもない。
荒唐無稽な展開に見える。だが、そうではない。こんなありえないようなことがメキシコでは日常茶飯事に起こっているのだろう。冒頭の娘とのほのぼのとした会話シーンだけだ。この映画に笑顔が見られるのは。その後、シエロが車を運転している横を、軍の銃を構えてパトロールする軍の車が通りすぎる、そんな日常風景が続く。なんだか何が起こるのか、ドキドキする。そして車が止められ、出てきた男から娘の誘拐を告げられる。
それにしても、いきなり終わるあのラストは何だったのだろうか。娘は本当に死んだのか。ここまで組織をコケにした彼女のところにやってくるのは誰か。明確な答えを出しはしない。だいたい警察と軍との関係や、犯罪組織がここまで野放しにされているのはなぜか。それもよくわからない。だが、そのわからなさが不気味で恐ろしい。これは圧倒的でまさかの映画である。