こんなモンスターを生んでしまった以上、彼女の人生終わってしまった。14歳の息子は平気で友人を殺す。これはお仕置きだ。だって自分のいうことを聞いてくれなかったから仕方ないよ、と。だが、彼は邪悪な存在ではない。みんなから慕われる。周囲のみんなは彼が大好きだ。だから彼に気に入られたいだけ。たくさんのみんなが彼のもとに集まってくる。彼は得点をつける。彼の友人お気に入りランキング上位になれるようにみんなは努力して競い合う。彼に取り入ろうとする。
2人の殺人で10年間刑に服し出所してくる息子を迎える母親は、大人になった彼に怯える。でも表面的には繕っている。恐怖を悟られないように。彼女は息子の犯した罪のためにすベてを失った。マスコミから逃れてひっそりと身を隠すながら生きる。だが執拗なマスコミはどこまでも彼女を追いかけてくる。第1章の彼女の日々を描いた部分が素晴らしい。全く情報を開示せず、51歳の一人暮らしの女の日々を綴る。そこに漂う不穏な空気。過去と現在をそっけなく往還させながら、何かが起きて何かから逃れるために生きる姿が描かれる。2章でその秘密が明かされる。息子の犯した罪を背負い込む。できることなら静かな安らぎを得たい。それだけでいいから。でもかなわない。
お話は3章で本格的に始動する。刑期を終えた息子との生活が始まる。23歳になった彼は更生したのか。彼は変わらない。また同じように仲間を作り、彼らの心を操る。これはサイコパスの話で、ホラーのような怖さがある。だがそれを母親の視点から捉えて、彼女の日常を脅かす周囲の人たちの脅威を描く。息子自体の怖さは前面には出さない。さりげない。でもほんのちょっとした彼の言動は十分怖い。だが彼を主人公にはしない。あくまでも彼女はどう思ったか、彼女がどうするのか、という視点だけで見せていく。ただ最終判断を下すところはあっけない。