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映画・演劇のレビュー

第8空中都市『Chaos Red Beat』

2007-06-30 06:59:59 | 演劇
 こういうタイプのエンタメは最近あまり見ないようにしている。正直言って時間の無駄だからだ。もちろんそれは僕にとってのことで、好きな人はどんどん見たらいい。なんら問題ないし、この手の作品を極めることも演劇の一つの正しいあり方だと思う。

 昔、まだ全く観客から見向きもされていなかった頃の、新感線も、こういい方向で作品を作り続けていた。(今もあまり変わらないが)初期のつかこうへい作品から、オリジナルへと移行していた時期、エンタテインメントに失敗しながらも試行錯誤していた頃のいのうえひでのりの作品を思わせる。あの時の、悪戦苦闘の作品の中に、これが紛れ込んでいてもなんら不思議はない。

 今ではこんな作品掃いて捨てる程あるのだろうが、あの頃は新鮮だった。ロックコンサートのような派手な照明と音楽で、単純な勧善懲悪のチャンバラ騒ぎを汗かきまくってやる。中身なんかないが、その熱気に引き込まれる。そんな作品だ。新感線は、それをシリアスと同時にギャグ満載でやっていた。ただ最初はバカバカしすぎて受け入れられなかったのも事実だ。それでもやり続け、今に到る。偉大である。『星の忍者』から『阿修羅城の瞳』という大作路線に移行した頃から作品とスタイルがようやく一致し始めた。そこまでは長い道のりだったはずだ。

 さて、この若い劇団である。彼らはあまりに真面目すぎて、芝居を楽しんでいない気がする。こういう作品は作者の独りよがりになることも多いが、これはそれにすらならない。その結果、芝居が単調になり、次から次へとチャンバラが続くのもつらいし、途中で眠くなる。もう少しストーリー展開も含めて、めりはりが欲しい。笑わせるシーンも全くなく、そのくせ話には奥行きがないから、結局派手な殺陣を、音響と照明でさらにショーアップするしかなく、芸のない芝居になる。いくら頑張ってもこのやり方には限界がある。

 舞台美術のシンプルさ(というか、仕掛けのなさ)はしかたないが、せめてストーリーをもう少し練り直したほうがいい。定番を踏まえて、そこに作、演出の田中直樹さんの世界観をもっとしっかり反映させなくては、ありきたりのものにしかならない。世界を終末から救うために、2人の男女が力を合わせて巨大な悪に立ち向うというロールプレイングゲームそのままの設定にいくつもの危機、裏切りとかを交えて見せていくだけでなく、彼らの心の動き、それぞれの思いをきめ細やか描きこまなくては独自の世界は作れない。せめてラブストーリーとしての側面をもう少ししっかり描けただけでも、印象はかなり変わったはずだ。それだけで感情移入ができるものになったはずなのだ。

 この手の作品は、観客をこの芝居の世界に嵌らせて、そこから出て来れなくさせるくらいの魅力がなくては成立しない。とりあえずテキストとして『ターミネーター』をしっかり5回くらい見てドラマ作りのノウハウを勉強したほうがいい。あのチープさの中で(お金がなかったのだ)、あれだけの熱気をこめた当時はまだ無名の若手作家だったキャメロンやりかたは、きっとお手本になる。

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