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映画・演劇のレビュー

往来『赤いハートと蒼い月』

2007-06-24 07:33:53 | 演劇
 とてもよく出来ている。2時間程にコンパクトに纏めてあるのもいい。無駄は極力排除して、シンプルな構造にする。どうしてもこういう大作はへんなところに力が入り、独りよがりになりがちだが、さすがベテラン劇団は違う。大味になるとこういう善意の芝居は見てられなくなる。作り手の押し付けがましさが鼻に突き出したら最低で、目を覆いたくなるものが出来る。なのに本人たちは気付かなかったりする。自分たちは正義だなんて思うのだ。勘違いも甚だしい。その点往来の芝居はよくわきまえている。いい意味でのエンタテインメントを前面に押し出しているのもいい。

 天津の胡同、とある四合院を舞台にして、ここで目が不自由な人に日本語を教える同じように目が見えない日本人女性が主人公。彼女の生徒たちと、彼女を慕ってやってくる人たちとの交流が描かれる。目が見えないこと、日本語を学ぼうとすること、この2つを共通項に持つ人たちのコミューンが、やがて天津視覚障害者日本語学校へと前進していくまでの姿が描かれていく。

 それを感動もの、として謳いあげるのではなく、さりげない人情劇として見せていく。実話の舞台化とはいえ、決して大袈裟な美談にはしない姿勢がいい。

 当然の事だが、中国語のセリフも多く役者たちは大変だったことだろうが、よく練習されている。しかも視覚障害者の役だし、クライマックスでは、市民合唱コンクールに出て特別賞まで取るという設定なので、歌の練習もしなくてはならない。役者たちはほんとに大変だったはずだ。しかし、こういうハードルは高いほどいい。何をまずしなくてはならないかがわかりやすいからだ。そこから役に入っていける。かなりの役がダブルキャストにされているのも、大変だっただろうが、役者サイドにとってはいい経験になったはずだ。自分の役を相対的に見れるのはいいことだ。ただ、現場は混乱を極めたであろうし、これだけの群集劇なのに、それが、2プロとなっているなんて、考えただけで、ため息が出る。演出はその交通整理だけでもかなりの精力を使ったはずだ。

 しかし、そんな作り手の大変さを感じさせないさりげなさで、仕上がっているのが凄い。商業演劇といっていいほどの完成度の高さを誇る。しかし、商業演劇にはない手作りの温かさが感じられる小劇場演劇ならではの優しい舞台になっているのがいい。これは役者たち全員によるアンサンブルの勝利だ。

 ミュージカルスタイルを取ったのもいい。そうすることで、リアルの1歩手前で作品を作れるからだ。メッセージは確かに伝えるがそれだけではない。この場所で生きる虐げられた人たちの、生き生きした姿を描こうとしたことが大事だ。エピソードの数々は、お話の域は出ないが、わざとらしくなく描かれたのもいい。彼らの哀歓が確かに伝わる。

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