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映画・演劇のレビュー

大阪新撰組『満月のほとりに片割れを求めて』

2007-06-30 07:29:21 | 演劇
 とても分かりやすく気持ちよく見れる作品に仕上がっている。さすがベテランの当麻さんは、ストーリーテラーだ。淀みなく男女7人の幻想的な小さな旅を見せる。ただし、結末部分は少し長くなりすぎた。説明的すぎて、そこまでのいいテンポを崩してしまうのは残念だ。

 彼らが満月を見て、心震わせるとてもいいシーンで終わっても良かったのではないか。なのに、ここからが腕の見せ所とでも思ったのか、いくつもの事実を明るみに出し、因果が巡る不思議を描く。ここに彼らが集まったのは偶然ではなく何かの運命だった、なんてことを見せてもあまり意味はない。出来過ぎのお話にしてしまうのは惜しい。それよりも、こんなこともあるかな、なんて思わせるくらいのさりげなさで示して欲しかった。

 鞍馬山の五月満月祭<ウエサクサイ>という実在の祭りモチーフにしながらも、それがまるで当麻さんの創作に思えるのがいい。この話のすべてが作り話で、それに上手く乗せられてほんの少し不思議体験させられた、くらいのさりげなさが今回の成功理由に思える。肩の力の抜けた一種の幻想譚として、僕はこの話を受け止めた。

 夜の高速でのあやうく事故になりそうな急ブレーキから始まり、3組の男女が同じ場所にやって来る。寺の境内を歩き、寺の中にあるケーブルカーに乗り、蝋燭の灯りを燈すだけの静かな祭りに参加し、さらには山奥に入り、彼らにとって特別な場所に行く。京都検定というパスポートを使い、流れるように一気にラストまで、見せていく。ゆっくり時間は流れ、彼らとともにこの物語の中に誘われていく。それぞれのシーンで3組の点景をさりげなく見せ、ケーブルの中で始めて言葉を交わし(コンペイ糖のエピソードが微笑ましい)、その後少し親しくなり、すべてが2年前の事故に収斂していく、という展開が気持ちいい。

 サランラップ(?)を使った舞台と客席を隔てる薄い透明の膜は、この世界を上手く表現している。こんな簡単な仕掛けがとても効果的だ。現実と幻想のあわいなんて、こんなにもさりげないものなのだろう。

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