追手門高校演劇部を40年牽引してきた阪本龍夫先生が引退され、昨年からここでまた、演劇部を立ち上げられた。そして今回初めてHPFに出場する。客席はもう、阪本ファンの大人たちで満席である。こんなHPF公演は見たことがない。誰もが見たいと願う。これはそんな高校演劇。
その重責を担うことになったのは阪本先生ではなく、仰星高校の演劇同好会(!)のメンバーたち。彼女たちのプレッシャーは半端ではないはずだ。しかし、彼女たちは押し潰されない。
なによりまず、舞台に立った4人のキャストたちが素晴らしい。ラスト、あれだけ長く台詞もないシーンを表情だけで見せきれる、って凄いことだ。普通なら間が持たない。子どもたちをそこまで追い込んだ阪本先生の面目躍如だなんて、そんなつまらないことは言わないし、そうじゃないはず。今まで追手門で培ってきたノウハウを棄てて新しいアプローチをせざるえない、そんな状況を楽しみ、へこたれないでちゃんと指導についてくる子どもたちを優しく導く。
終戦前日の大阪空襲で死んでいった少女が、お盆にやってくる。高校演劇部の夏合宿。2泊3日の学校での短い時間がこの芝居の舞台となる。今、幸せな時代を生きる高校生4人が、死者と出会い、何を思い、何を感じたか。
彼女たちは今、大阪空襲を題材にした顧問の先生によるオリジナル台本に取り組んでいる。芝居を通して戦時中を想像する。だが、子どもたちは現実には、当たり前の話だが、あくまでも今を生きている。そこを大事にした。だから、芝居を通して、あの頃を考える、というよくあるスタンスなのだが、教条的なお話にはならない。
特進コースに在籍し、毎日勉強に苦しめられている主人公の少女と、普通コースの他の3人の間にある溝。微妙にすれ違っていく想い。この合宿が終われば、夏は終わる。夏季補習があり、すぐに新学期も始まる。忙しい日々、何のために生きているのか、わからなくなる。イライラする。周りの目が気になる。自分たちの小さな問題に苦しめられている。そんな主人公を軸にして、他の3人との関係が実に見事に描きわけられている。劇中劇との対比が見事。バランスがいいのだ。戦時中の不幸を、満たされた今を生きる高校生に理解させるとか、そんなつまらない話にはしない。今もあの頃も、ない。みんな同じように、全力で生きている。それだけでいい。
阪本先生の思いが、ちゃんと生徒たちに伝わり、この素晴らしい芝居が生まれた。それを目撃できてうれしい。