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映画・演劇のレビュー

『君を想って海をゆく』

2011-12-19 21:24:28 | 映画
 とてもいい映画だ。こういう映画が見たい。見知らぬ風景、見知らぬ人々。彼らの生きる現実と映画を通して自分と、世界が一瞬クロスする。そんな瞬間に胸ときめく。僕は彼ではないし、彼のように強くはない。だけど、彼の生きる現実に映画を見ることでシンクロする。これが映画を見る快感だ。よくこんなことがある。いい映画を見たときだ。

 彼は4000キロを歩いてここまで来た。一途に彼女のことを想い、この長い旅を続けた。いくつも国境を越えて、内戦の続くイラクから、ここフランスまで来た。クルド難民である。だが、ただ生きるため故郷を棄てたのではない。正規の移民としてイギリスで暮らす恋人に会うためだ。彼女は今、不本意な結婚を強いられている。彼女に会って彼女の両親と話して、彼女との交際を認めてもらいたい。もちろん、そんなこと不可能だ。不法入国をしようとしている彼を彼女の両親が認めるわけもない。だが、彼は一目彼女に会いたい。そこから、その先はなんとか広がると信じて、ここまで旅してきた。

 だが、海峡を越えられない。ここまできて、あと少しなのに、そこが遠い。海のむこうに彼女がいる。でも、密入国ができない。彼はなんと海を泳いでイギリスまで行こうとする。そんな無謀なこと、不可能だ。だが、どうしても彼女に会いたい。そのためには、それしか方法はない。プールに通い、最初はほとんど、泳げなかったのに、毎日毎日泳ぎ、距離を伸ばしていく。

 そんな彼に、スイミングスクールのあるコーチが指導してくれる。夢を叶えるなんて無理だ。でも、夢見ることなら出来る。彼は信じていない。青年が本気でドーバー海峡を渡りきるなんてことを。でも、彼を助けたい、彼の夢に荷担してあげたい。それは彼の夢になる。難民の援助をする。不法入国している彼らを助けることは警察からにらまれる行為だ。だが、彼は放ってはおけない。これは、このコーチと主人公の青年のお話である。

 感動のラブストーリーではない。これは絵空事ではない現実を突きつける。ビターなラストも含めて、今僕等が直面する現実の一端が確かにここにはある。世界ではさまざまなことが起きている。そこから目を背けず、きちんと見つめていたい。


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