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映画・演劇のレビュー

『サラエボ 希望の街角』

2011-12-19 21:34:56 | 映画
 内戦が終わり、なんとか平和が戻ったはずのボスニアを舞台にして、戦後を生きる人々のドラマが描かれる。戦争の傷跡は目に見えるところにだけあるのではない。本当はそんなとこより、目には見えないところにこそ、深い傷みを残す。

 最初は、明るい恋愛劇のように見える。恋人たちの現実をスケッチする。空港を舞台にして、キャビンアテンダントの女性と、その恋人の管制塔で働く彼が繰り広げるドラマだ。彼が勤務中酒を飲んで、離着陸の指示を出していたことが明るみに出る。6ヶ月の謹慎を食らう。(そんな程度でいいのか、と驚いたが)その間、彼がバイトでムスリムの子供たちにパソコンを教えるため、彼らのコミューンに行く。そこで、彼は心の平安を得る。だが、彼がイスラム信徒になることで、2人の価値観の違いが徐々に大きな溝となる。

 描かれるのは、恋人たちのすれ違いなのだが、それは信仰の問題だけではない。もちろん、それって大きなことで、大体そこから戦争が起きたりもするのだ。愛し合っているはずの2人が別れていくことになるのは、そこが問題なのだが、映画は2人をこの環境の生んだ特別なケースとして見せるのではない。どこにでもある恋人たちのドラマのように見せるのである。そのさりげなさが、彼らの悲劇を際立たせる。

 簡単な映画ではない。こんなにもさりげなく、ただのラブストーリーにように、この物語を見せるけど、そのさりげなさは、確信犯的行為だ。ユーゴの内乱を描いた映画はたくさんある。僕たちには理解できない事情がそこにはあり、民族間の確執が、恐ろしい泥沼の戦争を引き起こす。この映画は、そんないくつもの映画の先に生まれた。一見穏やかな映画である。紛争を描いて血なまぐさい映画とは一線を画するように見える。だが、誰もが知っている。これはこれまでのたくさんの悲惨な現実を描いた映画と同じようにとんでもない悲劇が描かれてあることを。


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