スコセッシの新作はなんと3時間半に及ぶ大長編だ。『タクシードライバー』からもう50年。今もなお彼は精力的に魅力的な新作を撮り続ける。今回もそうだ。思いもしない題材に挑戦して、しかもすごく困難な題材を見事に料理する。Netflix大作『アイリッシュマン』に続いて今回も長い。正直言うと2時間の映画にしたほうが見やすい。だけどそうはしないのが今のスコセッシだ。テンポが悪いわけではないが、敢えて話をじっくり見せていく。堂々たるタッチで、映画がどこに帰着するのかもわからないまま引っ張っていく。
ディカプリオとデ・ニーロがダブル主演でほぼ全編に登場する。石油を掘り当てて裕福になったインディアンたち。そんな彼らを食い物にする白人たち、という視点が新鮮だ。こんなことが20年代にあったなんて知らなかった。虐げられた先住民族としてのインディアンという図式の映画は多々あるけど、インディアンの富裕層たちの話なんて初めて見た。そこで起きる連続殺人。呆れるほど簡単に殺していく。だがこれは犯人探しのミステリーではない。
お金をたくさん持つのはいいことだ。だが、お金は人を狂わせる。単純な図式はない。意外な犯人もない。しかも3時間26分。退屈させないけど、悠々たるタッチ。なかなか事件の核心には届かない。そんな一筋縄ではいかない映画なのである。
キングと呼ばれる伯父と彼に利用される甥。だが、ふたりの本音は単純な図式には収まらない。デニーロが久々に怖い男を演じた。いつも笑顔なのに怖くて不気味。ディカプリオは繊細なキャラを、これも心を隠して見せる。安易な善悪には区分できない人間を体現する。それは彼らだけではなく、周囲も同じ。石油発掘の利権を巡っての争いも単純ではない。抑圧されたインディアン。彼らを食い物にする白人たち。裕福で、白人たちを手玉に取るインディアンたち。ディカプリオは戦争からの帰還兵という設定もスコセッシらしい。静かな映画であるけど、怖い映画である。