どんどん新刊が刊行されていく売れっ子作家、小野寺 史宜。今回は4つの夫婦のお話。今回はなんだかあざといくらいにいろんなことを仕掛けてくる。ワンパターンにならないように編集者としっかり打ち合わせして、あらゆるパターンを想定して万全の構えでさりげなく仕掛ける。だから、あざとい。でもそれは嫌じゃない。読者への最大限の心配りだから。夫婦の問題に挑む。
これはそんな短編集である。いや、短編集は売れないから、ちゃんと短編連作になっている。ご丁寧にもタイトルは『夫妻集』だ。背景にいる小野寺さんと編集者が共謀して作った小説のように見えてくるのが面白い。
メインの夫婦(50代)の話から始まり、そこから3つの若い夫婦の話を見せてから再びメインの夫妻のエピソードに戻る。コロナ禍の2021年10月から始まり翌年の6月までの話。
出版社が舞台になる。4人のメインの主人公たち(ということはメインじゃない主人公もいるんです。夫婦のどちらかが出版社の人で、パートナーはもちろん別の仕事をしている)は講談社(実は仮名になっているから、講談社とは書いてないけど)で働いている。(景談社です) なんだかいろいろややこしい。だいたい「メインの」なんて書いたけど、夫婦のひとりをメインといっただけで夫婦は対等。
この出版社から出ている夫婦をテーマにした小説を読んで、そこから始まるあらゆるパターンも取り込み、新しい夫婦の在り方を提起する。その小説の作家も登場して、彼女が4組に取材して新作小説『夫妻集』を書くという設定。
しかもなぜか、年上の女性と結婚した話ばかりが(と言ってもふたつだが)続く。なんなんだろうこの拘りは。4組の夫婦のどちらかが勤めている出版社がお話の共通項になる。
夫婦についてのあまりないようなパターンを提起しながらも、これから先には充分あり得る話を先取りしてしっかり見せてくれる。さりげなく夫婦の新しい形を示す。
新鮮で、あるあるで、いろんなことを考えさせてくれる。楽しくてタメになる(?)小説。