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映画・演劇のレビュー

『そのときは彼によろしく』

2007-12-27 21:25:02 | 映画
 市川拓司の小説はいつも同じだ。一人ぼっちの男の子(や女の子)が大切な人に出会い、相手の事をずっと思い続けていく。遠く離れてしまってもいつまでも待ち続ける。いつか願いは叶う。『今、会いに行きます』からこの『そのときは彼によろしく』まで、一貫している。

 映画化された作品はそれぞれ原作のエッセンスをしっかり抽出した出来になっている。慌てずにゆっくり小説で描かれたことのすべてを見せていく。今までの作品と違い今回は原作が長いので、2時間程の上映時間の中でそのすべてを見せることは困難を窮めるはずだったのに、すべてを言葉で説明することで、無事に乗り切ってしまった。それって映画としては本来拙い事なのだが、TV出身のこの監督(平川雄一朗)はそれを平気でやってしまう。その単純さは決して悪くはない。

 無理しないけど、はしょったりもしない。長い歳月を描くためには、こんな方法もありなのかもしれない。とても平面的で美しい映像で見せていくのも、この映画にはリアリティーなんて必要ないという強い意志が感じられ悪くない。要するに、中途半端はよくないのだ。作り物であることを徹底させることでこの現実にはありえないような話に説得力を持たせることが可能になると平川監督は踏んだのではないか。

 わざとらしくしろ、というのではない。徹底的にフォトジェニックに見せることで、そのきれいなだけの風景とドラマに、日常をベースにしたファンタジーとしてのリアリティーを与えることに成功したと思う。

 子供たちの過ごす水辺の秘密基地とか、水藻だけを売るお店とか、1度眠ると目覚めることなく眠り続ける奇病とか、もともとの設定に無理がある。しかし、それを夢の中の現実のようにきちんと見せることで、リアルとは言えないまでも、バカバカしいとは言わさないだけの説得力を獲得する。

 ヒロインの長澤まさみがとてもいい。彼女の健康的な容姿がこのヒロインにはぴったりである。彼女が奇病に苦しまされており、人生の最期にもう一度彼に会いにくるという哀しい話を、とても生き生きした表情で見せてくれる。そんな彼女の明るさを受けて、終始暗い表情の山田孝之もいい。彼らの頑なさがこの作品世界にはよく合う。

 ある種のパターンで押し通すことが市川拓司の映画化には必須条件となる。いいひとは、ずっといいひとのままでいい。映画の中で彼らの内面が変化したりする必要は一切ないのだ。清潔で美しい風景の中で誰にも汚されることなく彼らの愛と友情は育まれていく。そして、たとえ誰かが死んでもその想いは変わる事はない。

 こんなのはメルヘンでしかないが、その心地よさを愛しく思うことが大事なのだ。『今、会いに行きます』『ただ君を愛してる』そして、この『そのときは彼によろしく』の市川拓司3部作は、原作のよさを生かした映画として、ひそかに愛されていくだろう。

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