習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『鰐』

2007-12-27 22:29:35 | 映画
 キム・ギドクの幻のデビュー作がようやく日本で公開された。96年の作品である。10年以上前の作品だが、やはり最初からキム・ギドクは変わらない。すべてのキム・ギドク的なものがこの中には封じ込まれてある。

 最近は洗練され、暴力的なイメージ(直接の暴力描写も)と、性描写が控えめになってきたが、このデビュー作はやりたい放題だ。だが、日本上陸第1作『魚を抱く女』にあったえげつなさはさすがにまだない。表現は控えめだがそっけない描写とドラマの孕む寓話性はいつも同じ。

 ハンガンの河川敷に暮らす3人。初老の男。若い男。子供。彼ら擬似家族に身投げした女が混ざり4人家族の様相を呈する。若い男は女を犯す。子供は女を慕う。なぜ、彼らが一緒に暮らしているのかはよく分からない。特に女が何故逃げないのか、わからない。

 映画の後半は、この女を捨て自殺に追い込んだ男を巡る話になる。この男と、主人公の男の対決を通して何を描きたかったのかが、今いちよくはわからない。わからないことばかりだ。

 再び自殺するために飛び込んだ女を追って男も川に飛び込む。女は死んでしまい、男も死んでいく。川の中で並んで椅子に腰掛けるラストは美しい。孤独な魂が出会い、安住の場所を求める、という話は『うつせみ』にも通じる。

 舌足らずの描写は荒削りだが彼の才気は充分に感じられる。『悪い男』でひとつの頂点に達した後、『うつせみ』で頂点を極めた彼がこれからどこにいくのか、とても楽しみだ。最新作『絶対の愛』ではさすがに迷走していたが、今回この『鰐』を見てますます次回作が見たくなったのも事実だ。

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