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映画・演劇のレビュー

豊島由香・朗読劇『かえるくん、東京を救う』

2008-10-24 00:14:55 | 演劇
 朗読劇と銘打っているが、これはジャンルとしては完全にひとり芝居だ。テキストを持ち朗読するシーンも一応あるけれども、それも全体の中での演出のひとつであろう。

 まぁ、ジャンル分けなんて別にどうでもいい。作品が面白かったかどうかが大切で、それ以外の事はどうでもいい。70分ほどのこの作品は、舞台の上で役者である豊島さんが「ひとり」であることを、作品自体の力としたとてもよく考えられた芝居だと思う。

 このささやかなお話は片桐という平凡な中年サラリーマンが見た妄想でしかない、と片付ける人には意味をなさない。観客がこの事実をそのまま素直に受け止めたとき成立する。そんなお話だ。

 ある日、仕事を終えて家に帰ると、かえるくんという巨大な蛙がそこにいて、東京の地下にもぐって、そこにいるみみずくんと一緒に戦って、東京を大地震から救おうではないか、なんて言う。とてもじゃないが無茶な話だ。何よりまず、そんな話自体が信じられないし、(だが、現実にはもう目の前に2Mの蛙がいて、話をしているのだ。それだけで無茶な現実が展開している)ただの銀行員でしかない自分には、そんな力もない。だが、かえるくんは言う。「僕は君のことをよく知っているし、君なら僕を背後から支えて、一緒にあの強敵であるみみずくんと戦ってくれるはずだ」と。

 村上春樹の同名小説の舞台化である。(『神の子供たちはみな眠る』所収)原作を基本的にはそのまま使って、朗読スタイルに仕立てる。当然のことだが豊島由香さんがかえるくんと片桐の2役を演じる。2役というよりも、やはりこれはひとり語りというべきだろう。

 彼女はこの非日常的なドラマを落ち着いた驚きをもって受け止めて見せてくれる。大仰な演技はしない。驚愕の出来事をありのまま受け止めて冷静に判断する。この芝居の方法と彼女の演技がマッチして、不思議な空間が現出した。

 村上春樹の世界を損なうことなく、また原作に溺れることもなく、正確にその世界を再現してくれる。演出は正直者の会の田中遊さんと豊島さんが共同で担当した。2人3脚でこの精巧な世界にリアリティーを与える。田中さんが豊島さんの目となって舞台を見つめる。とてもチャーミングで素敵な芝居だった。

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