5年ぶりの再演。新キャストで挑む改訂版。台本には、(たぶん)ほとんど変更はないように思う。キャストに合わせての改稿はなされているのだろうけど、あまり気にならない。
70年代の大阪、下町を舞台にした小さなお話。大衆食堂が舞台。お客はこないけど、常連さんからの出前とかはあり、なんとか生活は出来ているよう。父と2人の娘たち。最近ひとり従業員(彼は実は父親の前妻との子供。だから、ふたりの兄)を入れた。
ようやく父が入院から帰ってくる。姉は映画スターを夢見てここから出て東京に行く。妹は漫画家志望の高校生。まだここにとどまる。そんな3人とその周囲の人たちのお話。
父は子どもたちを静かに見守る。やがて、ここを彼女たちは去って行く。作、演出の武田一度さんは、父親目線で、そんな日々を穏やかに見守る。彼らの織りなすささやかなドラマはリアルではなく、ちょっとしたファンタジーだ。武田さんはリアルな人情劇を目指しているわけではない。失われてしまった時代への郷愁を甘酸っぱい記憶のように語っていく。60年代から70年代の前半にかけて、こんな風景は至る所にあったのだろう。そこで繰り広げられる庶民の哀感を愛おしく描くことで、過ぎ去った昔を懐かしむ。こういうノスタルジアの世界を通して、今の我々には何が必要なのかを問いかける。
小さな夢を見ることが、生きる糧となる。もちろん、世の中そんな甘いことはない.彼らの日々の中にもちゃんと現実はある。
やがて、消え去る運命にある。まちかどの食堂の同じとその家族。彼らのような人間がそこにはいたということ。世の中は凄いスピードで変わっていく。しかし、変わらないままのものもある。そんなことをこの芝居は教えてくれる。