
つげ義春の漫画の映画化である。こんな企画がよく通ったものだ。台湾との合作で台中、嘉義で撮影したらしい。
今年の夏も台北に行った。本当は台中に行く予定だったが、娘たち家族と一緒に行くことになったから彼らの希望に合わせた。台中行きは今月末から正月に変更した。台中は僕は2度目になる。今回はゆっくり1週間の滞在になるから、嘉義にも行く。
日本統治時代の光景が今なお残る町は昭和の日本にタイムスリップした気分にさせられる。ここでつげ義春の映画を撮るのはいい。ここは日本の貧しい、とある町(北町と呼ばれている)。昭和30年代くらいの話か。だけどこんな日本はない。なのにあまり違和感もない。まるで夢の中にいるような気分にさせられる。
だいたい冒頭の大雨のバス停で雨の止むのを待つシーンから驚きのスタート。雷が落ちたら困るから金属を体から取るのだが、やがてふたりが裸になるなんてあり得ない。さらには雷がバス停に落ちてくる。この衝撃的なエピソードから始まって、(夢だけど)その後も不思議なことばかりがさりげなく続く。
後半、いきなりの戦争のシーンからはもう何がなんだかわからない混沌になる。軍服姿で登場する。戦時下の台湾、日本兵か。だいたい森田剛の家(婿養子先)が白亜の豪邸(豊かな南町にある。北町から南町に入るには国境のような検問所がある)でそこに行くところから映画はますます無国籍になった。中国人の妻がいる。そこに成田凌(主人公の義男)と中村映里子(ヒロインの福子)がやって来るシーンくらいから混沌とした無国籍映画になり、さらには第二次世界大戦下の戦争映画になる。さらにはすべては負傷した兵士の見た夢ということになってくる。こんなつげ義春ってあり!と唖然とするばかりの展開だが、これは片山慎三監督作品であり、原作を入り口にした作品であると納得するしかない。
それにしても日本兵による虐殺シーンが凄まじい。いきなりの展開になる。後半は時系列もないし、もうなんでもありになる。しかもこれは一応純愛物語だったりする。成田凌がいい。彼はこのわけのわからない世界でもずっと自然体を貫いている。福子さんへの想いにもブレがない。だからこの世界を困惑することなくまるごと受け止めることができる。これは悪夢ではなく心地よい夢だ。彼はどこにもないどこかでまどろみ続ける。そして消えていく。