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映画・演劇のレビュー

4PIG『鳥の名前の少年』

2022-09-30 09:44:24 | 演劇

ラストで「少年の名前はハヤブサ」という語り部(生田朗子)によるナレーションが入ったところで初めてこの物語が、あのハヤブサの話だったのか、と気づくという段取りになったなら理想的だったのだろう。アフタートークで生田さんがこの台本をもらい読んでいて「そこまで読んで初めて、あぁ、そうだったのか、と思ったの」と語っているのを聞いたとき僕も「そうか!」と納得した。彼女のようにそこまで何も気にせず(気づかず)このお芝居を見れたならこのお話はとても素敵な寓話として理解できたのではないか、と。そういう意味でサブタイトルの「あるいは、ある小惑星探査機の冒険」という告知は取り下げたほうがよかっただろう。でも宣伝する上ではこれは仕方ないことかもしれないが『映像×朗読×爆音、大迫力の「4面プロジェクション」で贈る冒険物語!』ということだけでも十分にインパクトはあると思う。

僕が見たのは「生田朗子、 河野奈々帆 、森青葉」によるヴァージョン(公演の3日いずれも違う組み合わせ)で、3人とも素晴らしかった。特に少年役の河野さんの声。アニメのような少年声は反対に違和感なくこの世界を牽引した。この芝居はまず朗読劇である。だけど目の前で役者が演じる。一時期よくあったリーディング公演のスタイルを踏むのだが、そこに4面マルチの映像(サカイヒロト)と音響(ふじわらゆうこ)がクロスして演劇作品ならではの作品世界の広がりを作る。だが、そこで大事になるのはインパクトのある声だろう。人間ではなく機械である(惑星探査機)少年には本来性別はない。そんな性を超えた存在である少年を河野さんが見事に体現した。そこに少女そのものの森さんの声が重なる。実在しない少女を声だけで登場させる。(もちろん舞台上には生田さんを含む3人はちゃんと存在するけど)

企画・作・演出 オカモト國ヒコはこのお話をまるで母親が小さな子に語り聞かせる絵本のような作品として作りあげる。それをこんなスケールの大きな立体紙芝居として提示した。映像の広がりで宇宙を表現し、そこに3人の語り部を置き、彼女たちが役者としてというよりは声優としてたたずむ。もともとラジオドラマとして企画されたこの作品の方向性を演劇としてリメイクするとき、その素材としての特異性を大切にしていくとこういう形になった。そして、結果的により理想的な表現方法として生まれ変わらせることに成功した。河野さんの素晴らしさ、そして相棒となる少女の森さん、さらには世界全体を包み込むナレーターの生田さんのまるで母親のような優しい声。3人の見事なコンビネーションと映像、音響のコラボによって創造館という黒くて四角い空間にこのモノクロ宇宙を形作る。そこに70分の夢のような宇宙の旅が実現する。創造館を最大限に生かす試みとしてこの作品を作り上げたオカモトさんのチャレンジは見事に結実した。


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