なんと30周年だ。驚く。気が付けばそんなにも時間がたっていて、その間途切れることなく続いていたのか。凄いことだ。最近、こういう冠公演が増えている。もちろん消えていったたくさんの劇団もあるけど、こうしてずっと続いている劇団もある。僕は旗揚げ公演からほぼすべての作品を見ている。そこにはさまざまな変遷があり今のオリゴがあるのだが、作、演出、主宰の岩橋貞典はぶれることなく、自分のやりたいことを貫いている。当然作品には出来不出来はあるけど、彼のやりたいことは一貫している。初期作品ではまだまだいろんな試みをして方向性は揺れていたが『子犬祭り』くらいから安定してきたのではないか。エンタメ作品も多いけど、そうじゃない作品のほうが面白い。今回は３０周年記念作品でたくさんの役者を呼んできていて『千一夜物語』をベースにしたお祭り騒ぎの華やかな舞台みたいなので、エンタメ寄りの作品かと思ったが、そうではなかった。これは「そうじゃない作品」。
冒頭はお決まりのアラビアンナイトの世界から始まって、本編であるマンガ（アニメか？）の制作プロダクションの話へと速やかに移行する。そこで働く人たちの群像劇。岩橋がよくやるパターンだ。なんともリアルな夢のない話。職場での人間関係も鮮やかで、面白い。社長とその妻、新作を書かなくなった天才作家、彼女を信奉してスタッフになった女性や、ヘルプで入った新人とその娘、さまざまな人たちのそれぞれのバックボーンが交錯していくなかで、お話自体は新作漫画の制作に向けての時間を背景にしてなかなか企画内容が決まらない現状が綴られる。やがてそこで作られる漫画が外枠にある『アラビアンナイト』とリンクする。だが、それ自体がなんとシェヘラザードが今夜王様に語るお話なのだ。
なんともリアルな夢のない話。日常にある物語を生み出す現場。毎夜毎夜物語を作り語る女。永遠に続く物語。そのふたつが失われていく大切な命を今に留めることへとつながる。父親に連れられて偶然この物語が作られる現場に足を踏み入れた少女（実際の少女である幼い大塚結乃がしっかりと演じる）の驚き。世界が終わる予感。終盤で汚染された海に入れないという設定がラストの少女の死につながり、お話自体の骨格が明らかになる展開は切れ味抜群、見事だ。
死んでしまった娘の記憶が物語を作る。千一夜を乗り越えて、３０年という時間が「一万一夜」に、さらにはその先の「百万一夜」へとつながる。そうしてお話はどこまでも続くことが示唆される。それは永遠に続く終わりのない物語。３０周年にふさわしい作品だった。２・５次元俳優としてオリゴの中心メンバー今中黎明、渡辺大介、岩橋貞典の３人もしっかりとお話の外側で登場するのもご愛敬。
