市井昌秀監督の新作は香取慎吾、岸井ゆきのを主演に迎えた夫婦の危機を描いた作品。旦那への不満をSNSで「旦那デスノート」として発信することで怒りを抑えていた妻。だが、それを夫が見てしまうことから起こる騒動を描くコメディ作品という骨格なのだが、単純に笑わせてほっこりさせるという安易なハートウォーミング映画にはならない。だからといって重いタッチになんかまさかならないけど。実にバランスよく楽しめる娯楽映画のスタンスを保ちながら、夫婦の問題をしっかりと描いていくのだ。市井監督だからさらりとしていてわかりやすいのに切れ味は抜群。
妻は決して夫を全否定したいわけではない。でも、自分の気持ちを抑えて生活している(結婚から4年目)うちに不満が徐々に蓄積されていく。だからどこかでガス抜きが必要なのだ。それが「旦那デスノート」への書き込みだっただけ。鈍感な夫はまるで気づかないで平穏に暮らしていた。だけど、職場で同僚の女性(余貴美子!)から偶然「旦那デスノート」を見せられ、妻が自分のことを書いている(もちろん匿名で、だが、いくら鈍感な彼でも自分のことだと明らかにわかる)ことを知る。そこから始まるドラマは夫婦喧嘩ではなく、お互いが改めてお互いを見つめ直すまでの心の旅だ。
終盤の和解からさらなる決別に至る展開も見事。事情は単純ではない。あれはどんでん返しではなく、当然の展開。職場の同僚(余ではないよ!井之脇海)の結婚式のスピーチで終わらないのがいい。あそこであれだけ見せておきながらちゃんとその後の日常に戻り、そこから先をきちんと描いていく。市井昌秀監督はいじわるなのだ。
香取慎吾が繊細で鈍感という男をなんともリアルに演じている。職場のホームセンターでの描写も丁寧でそういう日常描写のリアリティがあるからこの作品をこんな内容なのにただのコメディにはしないことが可能だったのだ。