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映画・演劇のレビュー

『極道の妻たち 情炎』

2013-07-07 10:14:29 | 映画
 今、劇場で公開中の『極道の妻たち NEO』を見た時の衝撃は忘れられない。ここまで、つまらない映画はない。香月秀之監督はどうしてしまったのだろうか、とショックでしばらく立ち直れなかった。あれは映画とは言わない。これまで15本も作られてきたヒットシリーズの約10年振りの新作という触れ込みだったが、僕はもう岩下志麻が辞めた時点で、このシリーズは終わってしまったと思っていた。だから、高島礼子には悪いけど、彼女が主人公になったものは、1本も見ていない。東映本社から東映ビデオへと製作母体を変更した時点で、作品への期待は潰えた。(というか、最初から何も期待してないけど)公開規模も東映系一斉公開から、ミニ・マーケットになり、ビデオ販売のための映画となった。

 とはいえ、高島極妻を一作も見ていないのに、つまらないと断言するのは少し気がひけた。しかも、このとんでもなく酷い映画を見たあとだったので、怖いもの見たさで、このシリーズ最終作を見ることにした。(もちろん、わざわざレンタルしてきたのではなく、タイミング良く、たまたま見る機会が出来ただけだが。)

 そして、驚いた。これがなかなかよく出来ているのだ。もちろん低予算映画で、岩下志麻の頃のような大作ではないけど、話に説得力があるし、映画自体にも緊張感がある。監督は橋本一である。今では東映映画の正当な後継者として、唯一気を吐く新鋭だ。今年、もう3本もの映画を公開している。いずれも在りし日のプログラム・ピクチャー系統を受け継ぐ。ジャンルもなんでもありである。70年代までならこういう人がたくさんいて、ローテーションで映画を作っていたのだが、今では、もう亡くなった。

 ラストのクレジットを見て、さもありなんと納得する。脚本は高田宏治。撮影仙元誠三。往年のスタッフが脇を固める。これは本気モードの作品なのだ。だから、橋本監督も、燃えたのだろう。だいたい彼は『新・仁義なき戦い 謀殺』でデビューしている。深作欣二監督の代表作であり、日本映画史上燦然と輝く金字塔である、あの作品は、その後たくさんの続編や、「もどき」映画を生んだ。その最後を飾ったのが、彼のデビュー作なのだ。そして、あの作品は決して悪くはなかった。工藤栄一監督の『その後の仁義なき戦い』や、阪本順二監督の『新・仁義なき戦い』以上に、オリジナルの精神を受け継いだ作品だったのだ。先日見た『桜姫』も面白かったし、その前の『探偵はBARにいる2』は詰まらなかったけど、プログラム・ピクチャーってそんなもんだ、と今では納得している。

 さて、本題である。高島礼子が実に上手い。まだ若いのに、岩下志麻にも負けない彼女の貫録はどこからくるのか。彼女の前では、黒谷友香、原田夏希なんか赤子のようだ。大体あの新作はヤクザ映画ではない。ヤクザごっこですらない。それに引き換え、これは正しいヤクザ映画の伝統を継いでいる。もちろん実録映画ではない。まがいもののヤクザ映画だ。だが、それこそ、正しいヤクザ映画なのではないか。リアルは踏まえながら、嘘をちゃんとつく。パターンを踏まえて、お約束を遵守する。だから、それに乗り切れる。心地よい快感がそこにはある。

 娯楽活劇であることの矜持を守り、その中でいかに映画的興奮を描き切れるか。大切なのはそういうことなのではないか。ここにはそういう伝統が生きている。ラストの殴りこみのシーンは快感だ。
 

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