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映画・演劇のレビュー

坂井のどか『もののふうさぎ!』

2024-03-27 08:37:00 | その他

高校の居合道部に所属する2年生、網戸うさぎ。彼女の1年を描く部活小説。マイナーにもほどがあるけど、こんな子もいるのだろう。知らないことばかりが描かれるから新鮮だ。だけどこれもまた普通の高校生のお話。

 
剣道部ではなく居合道部。真剣を扱う。しかもこの小説はまさかの伝説、女子剣豪大会を描く。真剣による試合である。あり得ない。それに高校生が挑む。高校の部活を描くけどこれは従来のパターンとは一線を画す。友情とか高校生活とか家族の話とかに寄り道しない。ひたすら部活。しかも学校から飛び出して道場で他の流派とも渡り合う。
 
単純なスポ根でもない。4章の夏休みの帰省を描くエピソードで,彼女が東京に出てきた本当の理由が描かれる。居合道ではなく、虐めから逃げたのだ。帰省が嫌だったのは小中学時代の虐めグループに会いたくなかったから。なのに狭い田舎町だから会ってしまう。さらには彼女たちから逃げるために虐めの対象にされた女の子への虐めに加担したこと。うさぎは虐めグループだけではなく、虐められていた女の子にも会う。謝りたいが、謝って済むことではなく、何もできない。
 
このエピソードを介して、後半再び居合道部の話に戻る。ほとんど学校は描かれない。彼女たちが準所属する(まだ高校生だから正式入門とはならない)道場での話がメインになる。初めて開催される女子剣豪大会にうさぎが道場代表で出場して戦う話がクライマックスになる。スポ根である。表面的には。だが、そうではない。スポーツを楽しむことが描かれる。それを居合道という一見マイナーな武道を通して普遍に至る。しかも同時に彼女はトラウマになっている小中学時代の虐めを乗り越えていく。

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