まさかこのタイミングでこの小説を読むことになったのは偶然でしかないけど、不思議なタイミングだ。WBCシーズン開幕の日、大谷が通訳の不祥事から大変な状況にある中、日本のプロ野球スター選手の離婚スキャンダルの記事から彼のチームが日本シリーズ敗退するというドラマから始まるこの小説を読み始めた。なんと500ページに及ぶ大作である。
スポーツ新聞社の記者から販売部に配属された男が主人公。彼の仕事と家庭の物語だ。僕はスポーツ新聞社の話にはあまり興味はなかったが、これは面白いからどんどん読み進めた。2日で読み終えた。
ただ始まってまだ100ページの第2話の終わりにいきなり彼は亡くなって、そこから高校生だった息子、翔馬の話になるのには驚く。8年後、彼は今では父と同じ仕事に就いている。さらにお話は彼の弟である翼へと主人公は引き継がれる。まるでバトンリレーだ。
バブル後の父の話からスタートして、8年後から2010年へ。息子たちが父と同じようにスポーツ新聞社の記者(あるいは販売部)になりプロ野球界の内部に切り込む。明らかに巨人と阪神のトレード内紛から始まり、ドラフトや甲子園大会とさまざまな問題が描かれている。ふたりは仕事一筋だった父親の想いを受け継ぎ、気がつくと父のリベンジを果たす。
お話が9話からなるのは明らかに野球の9回を意識したのだろう。これは一応表向きはお仕事小説であり、かなりハードな内容で、スクープを取るための駆け引きや裏話を通してお話を引っ張っていくのだが、やがてだんだん家族の話の比重が大きくなっていく。父の遺志をふたりがそれぞれのやり方で引き継ぐ。
父を失くしたふたりの息子、その周囲の人が繰り広げるささやかな人生を描く大河ドラマだ。平成を舞台にしているが、内容はあまりに昭和色した小説だったけどそれがよかった。