
「劇団浮狼舎番外公演」とクレジットされているけど、本公演としての上演は今は不可能という状態であることが、神原さんからの案内や、当日パンフの「口上」の文から十分伝わってくる。「旗揚げから28年」。解散ではなく、メンバーがいなくなる、という状態でそれでも浮狼舎として芝居を打つ。そんな神原さんの心意気に胸が熱くなる。もちろん、「本公演」をしないのではない。メンバーさえ集まればいつでもスタンバイOKである。しかも、彼女には「神原組」というスタイルでのプロデュース公演もある。さらには、この後、7月別ユニットである「ハレンチキャラメル」の第10回公演も控える。撤退ではないことは明らかだ。だが、「劇団浮狼舎演劇学校」としての若手育成が思いもしない状態で終了したことは、悔しいはずで、忸怩たる思いでいるはずだ。
なのに、そんなことをおくびにも出すことなく、今回、新たなる挑戦に臨んでいる。凄いとしか、言いようがない。今回「ホラーを書く」と宣言した、らしい。自ら「どアングラの女王」を名乗り挑むこの中編作品は今の「劇団浮狼舎」にしか出来ない作品になった。
身の程(?)をわきまえて無理しないのもいい。というか、軽快なフットワークで、小味で、香辛料が確かにピリッと効いた作品に仕上がっている。しつこくなく、さらりとして、でも、気味の悪い(だって、これはホラーですから)、でもなんだかスマートな作品なのだ。後に尾を引かない、あっさりした作品でもある。神原さんが仕掛けたのは「居心地の悪いホラー」なのだが、これは(意図的に)その言い回しから期待するような、むずむずさせられるようなものではない。
50分という上演時間に収めたため、まるで無駄のない作品になったのが、いい。本来なら、このお話ならもっと粘つくような厭らしさが生じる。そんな内容なのだ。まさに「アングラ」芝居ならではの、である。でも、なんだか可愛いし、軽い。取りつくとか、呪いとか、それを白峰絹子さんが演じると、怖くない。取りつかれる側も岩井宏明さんが演じると、ほっとする。そのへんが神原さんらしい。ホラーすら、メルヘンになるのだ。素直な「純愛物語」としてのパッケージングがそうさせるのだろう。目が腐るとか、内臓を抉られるとか、とんでもない事態に陥っているのに、いいよ、と受け止める。そこには悲惨さはない。そこには騙すとか、陥れるとかいうような悪意が感じられないからだ。登場人物がみんな死んでしまうのが神原芝居の定番なのだが、今回はそうじゃないのも面白い。