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『火花』
こんなにも暗くて重い映画を平気で作れる。板尾創路ってやっぱり凄いと思う。これは秋の東宝映画の大作映画として、全国公開される(ミニシアターではなく、番線に拡大で掛かる!)作品なのである。なのに、全く気負うことなく自然体。一応メジャー作品なのに、遠慮はない。作者の「こうであらねばならない」という確固とした意志と自信に貫かれている。2時間全く迷いがない。
2002年からの10年間。ふたりの男(菅田将暉、桐谷健太)のたどった日々の記録。漫才で天下を取るために駆け抜けた時間。熱海での偶然の出会いから、今度は一緒に再び熱海にいく別れのシーンまで。芸人として、人を笑わせるプロとして、何をなすべきなのかを手探りで求める。そんな10年間の軌跡である。
有名になりたい、売れたいという想いは確かにある。しかし、それだけではない。20代、30代という人生に於ける一番輝いていた時代を、「何か」のために全てを擲つこと。彼らのとっては、たまたまそれが漫才だっただけ(でも、彼らにとってそれは漫才でなくてはならなかった!)で、これは(結果的に)普遍的な人の生き様についてのドラマなのだ。
同じような題材だったけど『漫才ギャング』とは全く違う。ここにある諦念は板尾創路という男の生きる姿勢にもつながる。誰かにわかってもらおうというのではない。自分自身を納得させるだけでいい。そのためだけに映画を作っている。実に傲慢。だけど誠実。