関根光才監督の新作映画だから、見た。ドキュメンタリー映画『太陽の塔』劇映画デビュー作『生きてるだけで、愛』。どちらも素晴らしい映画だった。後者の主人公を演じた趣里が素晴らしかった。身を斬るようにして役に向き合う姿勢は主人公の生き方と重なり合った。それは今回の主人公を演じた杏に言える。関根監督は静かに彼女たちを追い詰めていく。気がつくとどうしようもない絶壁に立つ。
そんな映画だから見る方にも覚悟を強いる。今回の新作も前作同様暗いし重そうな内容だから出来たら避けたかったが、関根監督がこれを通して何を見せてくれるのか、が気になった。映画は必ず凄くいいはず。だから勇気を出して見に行く。
認知症、老人介護、児童虐待。扱う問題が途轍もなく重い。しかもそれが重なり合う。しかも交通事故、その隠蔽から始まる。隠し続けるなんて不可能。轢いてしまった子どもを病院にも連れていかないで家に連れ帰るなんてあり得ない。さらには記憶を無くしたその子を匿い続けるなんてもってのほか。ただそんなことわかっていても今この瞬間、この子を失った我が子と重ね合わせて、しばらく育てようとする。夏の間だけ。たぶん。
この一ヶ月の休暇。認知症になり、彼女のことも忘れている父親の介護をするために帰省した。父と一緒に過ごすはずだった。そこに子どももやって来ただけ。そんな夏の日々が描かれる。
事故で記憶を失った9歳の少年は義父から虐待を受けていた。義父の暴力から逃れるために隠していたことが明かされるラストシーンは衝撃的だ。そこで初めてタイトルである『かくしごと』の意味が明確になる。
奥田瑛二の認知症の父親、9歳の少年、中須翔真。ふたりとしばらくの間暮らす杏。映画はこの3人の話だ。関根監督は彼ら3人をを追い詰めていく。僕たち観客はその先を見届ける。力作である。