読んでいて何度も泣きそうになった。こんなささやかなこの人生を僕たちは生きている。そのことを益田ミリは教えてくれる。
今回は2020年から2023年が背景になる。コロナ禍である。だから彼女は常にマスクをして外出している。世界はそれまでとは変わったけど、彼女も僕らも変わらない。以前の日常は失われて不安な毎日だったけど、いつもの日常を生きていく。
そんな日々のスケッチであり、暮らしの実感が綴られる。ゆっくり丁寧に読みたいけど、どんどん読み進めてしまう。何もない、がこんなに愛しい。
途中にさりげなく差し挟まれた一文「一日だけ11歳に戻るなら永遠だった未来が見たい。」を読んだ時も、泣きそうになる。涙腺が弱い。あの頃の日々を思い出す。ほんの数年前が今ではもう遠いなんて。
あの頃は11歳の頃であり、コロナ禍の2021年の頃でもある。4年前のあの頃、母親が亡くなった。そんな頃。
短編小説『念のため』はラグビーワールドカップを見に行く話。オーストラリア戦のチケットを貰って静岡まで。直前の漫画でも同じ話が描かれる。2023年から回想された2019年の思い出が小説として描かれる。
この本の紙がグリーン、ピンク、ブルーの3色で、途中にポストカードみたいなのも挟まっていたりして、とても贅沢で素敵な本。幸せな気分にさせてもらった。