習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

誉田哲也『武士道シックスティーン』

2008-08-28 21:38:53 | その他
 こういうスポーツものには基本的に弱いのだが、それでもこれはよく出来ている。えこ贔屓なしで上手い、と思った。一気にラストまで読めた。なんのために闘うのか、ということの答えが「好きだから」というあまりに単純なところに落ち着くのに、それがこんなにもすっきり入ってくるのがいい。

 主人公の磯上香織は、全中で準優勝したツワモノ。彼女が市民大会でどこの馬の骨ともわからない奴に負けた。彼女はただ勝つために剣道をしている。剣道は勝つか負けるかだ。負けは死を意味する。そんな極端な性格をしている直情型の女剣士だ。そんな彼女を偶然から倒してしまった早苗は香織から付け狙われる。同じ高校に入り同じ剣道部に所属する。そんな2人のお話が、視点を交錯させて交互に描かれていく。

 香織のキャラクターが面白い。ここまで極端な性格なのに、そのずれっぷりは素敵だ。一途に思いつめて、一直線に突き進むさまは心地よい。そんな彼女に影響されて、同じように剣道に嵌っていく普通の女の子であった早苗の変貌も楽しい。

 2人がお互いに影響を与えながら成長していく様が描かれていく。どちらかが、どちらかを変えていくのではない。あんなにも頑なだった香織が、悩み考え、変わっていく。小説の終盤、香織がクラブを休部する。生まれて初めて剣道のない日々を過ごす痛ましいシーンが続く。もどかしいが、あの場面がこの小説をただの楽しいだけのものから、ステップ・アップさせた。小説自体も、父親との確執も含めて、ありきたりと紙一重なのに、実に上手くツボを押さえている。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『少年メリケンサック』 | トップ | 『インクレディブル・ハルク』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。