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映画・演劇のレビュー

『コン・ティキ』

2013-07-17 07:58:44 | 映画
この地味な大作映画を諦めることなく、作り上げた製作のジェレミー・トーマスは偉い。興業的な成功は望めない映画に大金をつぎ込み、妥協することなく完成させる。使命感もあったのかもしれないが、これは一応娯楽映画だ。芸術的な野心作というわけではないのに、この壮大なプロジェクトに挑み成し遂げる。

キャスティングも地味。まるでスターを使ってないから、ネームバリューからの動員も望めない。ハリウッド大作の凡庸で無意味な作品とは違う。派手な見せ場でつなぐ娯楽冒険活劇ではない。しかし、ハリウッド映画に負けないような膨大な制作費が必要となる企画だし、きっと公開してもヒットしない。だから、これは製作者たちの純粋な想いだけが成し遂げる偉業なのだ。

ペルーからポリネシアまでの8000キロの航海を、風だけを頼りに筏によって成し遂げる壮大な旅だ。この大冒険を荒唐無稽なスペクタクル大作としてではなく、史実に忠実に再現した。現実は映画のような派手さはない。だから、この映画は現実を再現するから地味なのだ。映画なのに、なんだか映画っぽくない。単調な筏での日々がちゃんと描かれていく。太平洋にただぷかぷか浮かんでいる。

音楽で盛り上げたり気分を高揚させるようなあざとさはない。ドキュメンタリーのように単調で、気の遠くなるような旅だ。それをきちんと描いていく。なのに、それがこんなにも感動的なのは、ここには嘘がないからだろう。わざと派手にもしないし、地味にもしない。『ライフ・オブ・パイ』と較べるといい。本当に地味だ。だからこそ、これは凄い。映画にしかできない作品なのだ。彼らの無謀な大冒険を追いかけていく。それだけで感動的だ。


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