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映画・演劇のレビュー

第2劇場『パラダイス・ガラージ』

2011-12-20 22:39:10 | 演劇
 これは思いがけない拾い物だ。いつもの、ちょっと緩い感じの新人公演のつもりで、見に行ったのだが、そのスタイリッシュな舞台に驚かされる。この緊張と緩和の絶妙なブレンド感。堪能させられた。まるでいつもの2劇の芝居ではない。もちろん阿部さんも音間さんもいない2劇である。若くて新鮮なキャストとスタッフが自分たちオリジナルの芝居を作る。作、演出は水町紫さん。凄い才能の誕生だ。

 カフェ公演というスタイルの利点を最大限に活かし、でも、というか、だから、とても余裕のある作り方がなされる。ワンドリンクサービスというよくあるパターンすら、芝居に盛り込む。開場と同時に舞台では2人の男女が身体をくねらせて怪しげに踊っている。それが、開演まで、30分続くのだ。芝居が始まる前から、この少しいつもと違う空気に乗せられる。

 やがて、明かりが消え、唐突に始まる。主人公の女性は、ある男によってこのマンションの一室に拉致されてきた。借金のために。だが、彼女が考えるようなことは起きない。反対に、居場所のない彼女はここで、寝泊まりさせてもらうこととなる。

 3人の男女がここではルームシェアしている。彼女も一緒に共同生活させてもらうこととなる。吉田修一の、あるいは行定勲監督の『パレード』のような話なのか、と思わせる。みんながそれぞれ秘密を抱えながら一緒に生活する。主人公の女性はここで見ず知らずだった3人と暮らすことで、いろんなことを知る。彼女の3人との関わりや彼らとの距離の取り方がおもしろい。客観的に観察していく。なんだか醒めている。舞台手前のソファーに彼女が行くと、そこは本来のアクティングエリアであるテーブルのある居間から隔絶された場所になる。そこは後景の舞台とは距離の出来たドラマの外となる。2人の踊る幽霊たち(最初から舞台にいた2人だ)との会話を挟みながら、ゆっくりとドラマは進行していく。

 ラストのあっと驚くような展開も含めて、とても実によく出来ている。もう隠す必要もないから書くけど、ここで暮らしていた3人が実の兄弟で、この3人は家族なのだ。なのに、彼らは他人のフリをして生活していた。なぜか。目の前の現実から距離を取りたい。たとえ家族であっても。個人の自由だとか、そんなことを言いたいのではない。他人同士が一緒に暮らし、お互いに必要以上に関わり合わない。その緩やかな関係性。つながりを拒絶するのではない。だが、お互いが「個」であることを大事にする。ホモセクシャルであることをカミングアウトする。恋人の中年男を連れて来る。(横山秀信!)彼を囲んでみんなで喋る。特別なことではない。どんなことであっても。ここで過ごす時間は心地よい。ただそれだけの芝居だ。このほんの少し突き放す適度な距離感がそんなふうに思わせる。とても雰囲気があるいい芝居だ。


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