習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『シネマの天使』

2015-11-21 19:55:46 | 映画

地方の映画館が閉館する。歴史ある建物が消えていく。映画の思い出は映画館の思い出でもある。今までも幾度となくこういう映画は作られてきた。(谷口正晃の『シグナル 月曜日のユカ』は佐々部清『カーテンコール』とか)今回は広島の福山市にあった大黒座という映画館が舞台だ。ここ出身の監督である時川英之が映画化した。彼がどんな監督なのかは知らない。今まで自主映画を作ってきた人なのだろうか。彼が作った劇場用映画を僕は見たことがない。

映画はいささか感傷過多で、独立した1本の映画としては心許ない。プロの俳優を使い、劇場用仕様にはなっているけど、なんだかぎこちない。そのぎこちなさが魅力になればいいのだが、そこまではいかない。こういう映画は難しい。描きたいことが明確なのだが、それが普遍性を持ちえない。映画ファンならわかる、なんていう甘えた作りでは納得させられない。

主人公の2人の男女(本郷奏多と新人の藤原令子)のそれぞれの想いがもっとちゃんと描かれたならいいのだが、そこがステレオタイプでは意味がない。あくまでも映画館の閉館という事態を後景にした少年少女のラブストーリーにしたほうがいい。映画好きの少年はバイトしながらいつか自分の映画を作ることを夢見ている。その時には彼女をヒロインとして迎えたいのだが、なかなか言葉にはできない。映画館で働く彼女はそれほど映画に拘るわけではない。しかし、昔を懐かしみ、閉館の知らせを聞いてここを訪れる人たちを通して、彼らの想いを感じる。

確かに「映画への愛」ということが、ここには溢れてくる。それは構わないけど、それだけに寄り添い、本来の目的が疎かになるのはもったいないことだ。あくまでもこれは大黒座閉館までのドキュメントなのなら、そこに徹するといい。しかし、そういうわけではないのなら、ちゃんとした人間ドラマ(なんだか、大袈裟だな)に徹するべきなのだ。これではお話のほうが後付けになっている。そういう中途半端さがこの映画をダメにしている。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 保坂和志『遠い感触』 | トップ | 内村薫風『MとΣ』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。