3つの短編からなる。独立したお話だが、連作のようにも見える。すごい新人が出てきたものだ、と感心する。大胆なタッチに圧倒される。最初の『2とZ』の主人公がどんどん変わっていくそのスピード感に圧倒された。並行して描かれるいくつものエピソードが集約され決着がつく。
だが、次に彼のデビュー作『パレード』を読むと、こっちのほうが大胆で、先の作品は2番煎じだったことに気付く。いきなりの戦争。有無を言わさずに繰り返される殺戮。暴力の怖さ。銃を持った兵士たちが平和な町にやってきてどんどん殺していく。主人公のはずの語り部がどんどん殺されていくから、リレー方式で語り部がどんどん引き継がれていく。そのスピードの速さ。それだけ、簡単にどんどん殺されていくのだ。いろんなやつが出てきていい人も悪い人もどんどこ殺されていく。
3話目のタイトルロール『MとΣ』はマンデラの話を中心にした中編。27年間幽閉されてきた彼が監獄から出る時、内村は何をしていたか。(内村というのはこの小説の作者ね。でも、これは必ずしも彼の私小説というわけではあるまい。)個人的な内村の体験と、マンデラ暗殺事件の真相をリンクさせる超常現象(超能力)を描くのだが、その不思議な出来事をどうこうするのではない。お話はいずれも求心的ではないのだ。テーマを設定して、そこに向けて話が突き進むわけではない。このドキュメンタリーのような、一部を抜き打ちで切り取るようなタッチは新鮮でいい。だが、今後、これだけではすでに飽きる。作者である内村薫風の次回作が楽しみだ。新たなる戦略はあるのか。