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映画・演劇のレビュー

『THE FIRST SLAM DUNK ザ・ファースト・スラムダンク』

2022-12-14 11:54:10 | 映画

大ヒット中のアニメ映画だが、僕は原作漫画もアニメシリーズも見たことがなかった。だから何の先入観もなく初めてこの『スラムダンク』という作品に接する。単体として、1本の映画として、これを見る。2時間4分と幾分長い映画だが最初から最後までずっと緊張が持続する素晴らしい作品だった。

バスケットボールのインターハイ。映画はその「とある1戦」だけが描かれる。20分ハーフで計40分の出来事が124分で描かれていく。神奈川代表のチームは秋田代表の優勝候補である強豪校と対戦する。勝てる可能性は限りなく低い。試合が始まる。前半はなんとか五分五分の戦いを見せるのだが、後半で一気に突き放される。力の差は歴然だった。だが、最後まで試合はわからない。終盤奇跡の追い上げを見せる。そして、どうなるのか? 

リアルタイムの一戦の間に挟まれるのはコートで戦う5人のそれぞれのドラマだ。お話の中心となるのは主人公である沖縄から来た少年の話なのだが、彼だけではなくほかの4人のエピソードもしっかりと描かれていく。(原作漫画の主人公は彼ではなくコメディリリーフを担い終盤活躍する赤髪の1年生だという。)だが、それらのエピソードは試合の感動を盛り上げるのではなく、とてもさらりとしたタッチで綴られていく。試合のシーンの緊迫した空気とは違いとても静かだ。だが、それが映画全体の流れを乱すことはない。ほっとさせるのではなく、それどころか緊張感を持続させる。最初から最後まで映画は静かで緊張感のあるドラマを提示した。このささやかな戦いをしっかりと見守る。

この小説の描くものは、どこにでもあるささいな高校生活の1ページでしかない。だが、彼らはこの一瞬に自分のすべてをかける。そんなどこにでもある、でも、かけがえのない時間が描かれる。原作はきっと壮大なドラマなのだろうけど、この1作は、その全体を包み込むようなテーマを内包しながらも、ささやかなお話として閉じていく。勝ち負けなんかどうでもいい。でも、絶対に勝ちたい。だから自分たちのすべてを出し切って戦う。これはよくある「スポコンもの」の一種だろうが、ちゃんとある種の普遍性を描く。だからこんなにもあっさりとしていて、なおかつ感動的なのだ。


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