
これは実に勇気にある映画だ。なのに、それをまるで苦労を感じ指さないクールな見せ方で、スマートに描いている。若い監督(藤井道人)が物怖じすることなく、こういう危険はお話を愉しみながら作っているのがいい。今の日本の政治を扱うというタブーに挑戦しているのにも関わらずそこには悲壮感はないのが凄い。
それにしても主人公のふたり(シム・ウンギョンと松坂桃李)がほんとうに素晴らしい。とくにシム・ウンギョンの無表情。内に秘めたものを表には一切出さないまま、淡々と事件を追いかけていく姿が、それでなくともスリリングなこの映画を、さらに緊張感のあるものにした。
終盤「それはないよ、」と思わせる展開に舵を切るのだが、商業映画としては仕方ないことかも知れない。そこまでの追い詰め方が半端じゃないから、落としどころをどこに持ってくるのか、心配したけど、まぁ、ここは仕方ないところだろう。そこよりまず安倍総理を実名で出ださないどころか、総理大臣には一切触れないで、この題材でここまで思い切った映画が作れたと言うことに感動する。これは事実の告発ではない。問題提起なのだ。今の日本の政治についての。
このシンプルすぎるタイトルが提起するのは、目の前にある巨大な事件を追うことではなく、それと向き合う人間を描くことこそが、この映画の目指すものだと言うことを明確にする。たったひとりの新聞記者に何が出来るのか、ではなく、たったひとりの新聞記者が何をするのか、を丁寧に描く。そこから僕たちひとりひとりがどう政治と向き合うか、が描かれる。さらには、自分たちはどう生きるべきなのか。そんな問題すら突きつけてくるのである。