ウイング再演大博覧会の2作品目となる作品である。今回が3度目の公演となる。ゲオルク・ビュヒナーの原作を態変世界にアレンジして再構成した不条理劇。12のシーンから構成された物語。もちろんいつものように台詞はない。描かれる内容も象徴的な次元に止まる。ここから明確なストーリーを摘み取ることに意味はない。ただこの残酷なドラマのカケラを感じるだけでいい。
娼婦マリーとヴォイツェクのドラマをストーリーではなく、点描で見せていく。事前情報は一切なく見たから、話の概要がなかなか摑み取れない。だけど、ヴォイツェクの置かれた状況はわかる。マリーの狂気に引き裂かれていく。12のシーンがそれぞれいつもながらのパフォーマンスなのに、同時に印象的なドラマを見せる。
「老婆のメールヒェン」(金満里によるパート)に流れる歌がこの作品世界をくっきりと指し示す。その直後の「マリーの幻景」と題されたパートのインパクトは強烈。胎児を自分で摑み出し放り投げる。だが臍の緒は切らない。
放り捨てられた胎児を演じた(と、僕は思ったけど)向井望のパート「枯れた向日葵」から惨劇に至るクライマックスの流れも自然だった。下村雅哉演じるヴォイツェクの静謐と渡辺綾乃演じるマリーの狂気の対比。どちらかが善でどちらかが悪というような明確な境界はない。殺人事件を描くにも関わらず、善悪はなく、そこには空漠として茫洋とした荒野がただ広がっている。