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映画・演劇のレビュー

『マイティ・ハート/愛と絆 』

2008-08-21 09:12:38 | 映画
 9・11以後、紛争が続く、アフガンに留まり、取材を続けるアメリカ人中ジャーナリストが、2002年1月、パキスタンで取材中、テロ組織に拉致された。地元の警察や彼の妻たちが、必死になりなんとかして生きて彼を取り戻そうとするが、叶わない。

 マイケル・ウインターボトム監督がアンジェリーナ・ジョリーを主演に迎えてアメリカ映画を撮る。なんだか、嘘みたいな企画だと思った。ハリウッド資本の感動大作のようなものと彼の作る映画とは天と地ほど離れている。まさか、彼が娯楽映画にひよったりはしないだろうから、一体どんな映画なんだ、とちょっと不安だったが。最初のシーンから、不安は払拭された。あたりまえだ。彼はいつも自分の映画しか撮らない。制作を担当したプランBがブラッド・ピットの会社で、彼は従来のハリウッドのメジャー映画のような映画作りには興味がない。その結果、マイケル・ウインターボトムはいつもと同じアプローチでこの作品を作る。

 それにしても、あきれるくらいにいつもと同じタッチだ。緩い感動ものを期待して見た観客を完全に拒絶する。

 ドキュメンタリータッチで事件の全貌を描いていく。(これは事実を基にした映画だ)早い展開、たくさんの人物が右往左往して、誰が誰なのかも定かではない。不穏な空気の市街地にカメラを入れて、隠し撮りで、人々の表情を捉える。事件をお話として描くのではない。ここで、今何が起きているのかを、ここで生活する人々の姿と共に見せていく。外部の人間が勝手に自分たちの国にやってきて、戦争をする。部外者が我が物顔でカメラをむける。自分たちがここでは外部の存在でしかないということを監督自身が誰よりもよく知っている。紛争地に行き、取材の名の下にカメラを向けることの怖さ。だが、そこから目を背けてはならない。そのことも彼はよく知っている。

 これは事件の顛末を描く映画ではない。ましてや被害者に同情した不幸な出来事を描くものでもない。世界で何が起きているのか、そこに目を向けることがこの映画の眼目だ。この映画を見た後、手元の新聞の1面に目を落とすとムシャラフ大統領辞任の文字が!思わず新聞を読みふけってしまった。今、この映画で描かれていたことの続きが、ここには書かれてある。

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