習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『人のセックスを笑うな』

2008-08-21 17:44:51 | 映画
 山崎ナオコーラの小説を井口奈巳が映画化した青春映画。この過激なタイトルに騙されたらいけない。これはとても真面目な純愛映画。エッチなシーンはありません。

 DVDで見るのはちょっとつらい映画に作られている。まぁ、映画はいつも劇場で見ることが本来のあり方なのだが。遠景からのフィックス、長廻しの多用は、TVサイズではかなり苦しい。何をしているのか、わからないわけではないが、主人公たちが豆粒に見える。でも、そんなふうにして捉えられた田舎の風景は心地いい。人物より風景本位の映画になっている。

 広々とした田舎の景観のなか、単車を走らせたり、自転車に乗ったり、歩いたり。大学のシーンでも、のんびりした描写が続く。2時間18分というかなりの長尺は話のほとんどないこの映画にとって徒に長いという印象を与えるが、そこもまた監督のねらいだ。だいたい原作自身も話はスカスカ。ただし、原作は短いから、あまり気にならない。それに反してこの映画の長さ。嫌いな人には耐えられないことだろう。どうでもいい会話だとか、カット尻をわざと長くしてたり、確信犯的な行為である。

 そうすることで、永遠に続くような時間のなかで、たゆたう彼らの姿が際立つ。どうでもいいような時間が実は僕らの毎日で、それがいやだから、忙しいフリをしている。だいたいこの映画の中には、何もない。だらだらとおしゃべりしたり、ぼーっとしてたり。それだけが延々と描かれていくのだ。そんな映画のどこが面白いのか、と思うだろうが、なぜか、これが面白いから不思議だ。目的もなく時間をただやり過ごす。そんなことってある。この映画の主人公たちは、ただなんの目的もなく、毎日をやり過ごしていく。

 みるめ(松山ケンイチ)は20歳も年上の大学の講師であるユリ(永作博美)に興味を持つ。ふらふらと彼女についていく。すると彼女もそんな彼の気持ちに応えてくれる。2人は恋人同士になる。だからといって、将来結婚したいとか、そんなのありえない。だいたい、彼女にはかなり年上の夫がいる。その事実を知り、彼は普通にショックを受ける。だが、それで2人の関係がどうこうなるわけではない。大学の友だちであるえんちゃん(蒼井優)は、みるめが好き。だから、ユリとみるめのことを知り、かなり悲しい。だが、そんなことを表面には出さない。でも、なんだ、かんだと彼にまとわりつく。仕方ないことだ。好きなのだから。

 こんなふうにストーリーをわざわざ書いたのは他でもない。この映画には何もないからだ。ストーリーでも書かなくては間が持たない、というのは冗談だが。それくらいに、空白だらけの映画なのだ。そんな空白をこの映画は武器にしている。

 なにもない。そのことを描く。何もないそんな時間の中で、僕らは必死に、誠実に生きている。学校の屋上でいつまでも悶々としているみるめの姿を捉えて映画は終わる。実にこの映画の幕切れにふさわしいラストだ。

 ちょっと扇情的なタイトルだが、この真面目な純愛映画は、人の一番滑稽で恥ずかしい行為を見て笑うような愚かな人間にはなるな、と言っているようだ。

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