
とてもいい映画だった。傑作というわけではないけど、ここからは在りし日の香港が偲ばれる。華やかな街だった香港の記憶がよみがえる。それだけでいい。
そこには庶民のささやかな喜びがある。100万ドルの夜景が消えてしまったことを知らなかった。この数年で9割ものネオンが姿を消してしまったなんて信じられない。
2010年の建築法改悪からネオンは違法とされていたなんてまるで知らなかった。ということは前回香港に行ったときには、もうネオンは違法とされていたのか。あらゆる角度から香港は中国政府に取り込まれ自由を失っていく。あそこにはもう昔の輝きはないのか。
だけど諦めない人たちがいる。ネオン職人たちの想いは消せない。さらには香港人の想いも、ここには溢れている。この街が好き。これからもここで生きていく。だけどここはもう以前のここではない。
2014年の雨傘運動からもう10年になる。昨年久しぶりに香港に行く予定を入れていたのに行けなくなった。自分の目で今の香港を見てみたい。観光客に見えることなんか知れているだろうけど。
この映画を見ながら、消えていくかつての香港への愛惜だけでなく、それでもこの街に留まり生きる覚悟が身に沁みた。死んだ夫(サイモン・ヤムが素晴らしい)の意思を受け継いでネオンを作るシルヴィア・チャンの姿を見ているとそこに込められた香港人の熱い想いが伝わってくる。中国政府の理不尽の前で成す術もない無念さはある。それでも『燈火は消えず』に込めた想いもある。この映画からはそんなさまざまなものが確かに伝わってくる。シルビィア・チャンがプロデュースした若い女性監督アナスタシア・チャンの第1回監督作品である。丁寧に愛おしむように作った珠玉の一作。