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映画・演劇のレビュー

ИEUTRAL『はじまりのリズム』

2009-02-25 20:48:56 | 演劇
 死というテーマを扱いながらも、とても明るくて前向きな作品に仕上がっている。シンプルでわかりやすい。しかも、死を誕生と対比関係にしたため、後ろ向きな話にはならない。だが、底辺に流れる『死』というものへのいざないは、この作品の大事なテーマで、そこをおざなりにしたまま、『再生』のドラマとして単純に受け止めるのはまずい。

 いままでのニュートラルにはなかったさまざまな意匠が見られる。ファンタジーっぽい作りとか、メルヘンチックな衣装にダンスや歌のシーンが満載されて、楽しい芝居になっている。コミカルな展開まである。単純で明るい舞台美術も含めてまるでなんだか勘違いした芝居のようにも見えるが、もちろんそんなことはない。『その公園のベンチには魔法がかかっている』が少しこれに近いタッチだけど、それでもここまでストレートで無邪気なフリはしなかった。そう、これはフリである。そのことは最初から最後まで一貫している。底に流れるものは深くて暗い人の心の闇だ。死んでしまった夫と妻の距離。彼女は悩んでいる。彼が子のこの誕生を望まないのではないか、と。自分たちが生きるこの世界には希望がない。しかし、周囲の人たちの励ましを受けて、彼女は出産する勇気を持つ。こんな風に書くと、やはりとても単純なヒューマンドラマのように見える。だが、実際はそんなことはない。

 死んでしまった夫(大竹野春生)と、彼が残していったおなかの中の生命をどう受け止めたらいいのかとまどう妻(服部まひろ)。この2人の心情をかっての大沢秋生さんなら、突き詰めたタッチでの2人芝居として描いたことだろう。だが、今回は2人をお互いに向き合わせることなく、別々の場所に置いて、それぞれの他者との関係の中で描く。感情がむき出しになることなく、内側に閉ざされたままで、両者の話が描かれていく。彼女たちの周囲の人たちもただ優しいだけの人物にはしない。それぞれが抱えるものをあからさまにもしない。特に彼女と対の存在となる重田恵さんの友人については書き込みを敢えてしないことで、2人の関係性を際立たせる。

 この芝居は心情を表には見せることなく、すべて自分たちの心の中に閉ざしたままで見せる。表面的なカラフルさに気を取られているうちに芝居はあっという間に終わってしまう。アフリカに行くシーンから彼と彼女が向き合いおなかの中の生命を確認する。ふたりがそこで手と手を重ねる美しいシーンで芝居が終わったらどうしようか、とドキドキしたが、さすがにそれはない。甘くて優しい芝居だが、そこまで単純ではない。

 その後、彼女が引き受ける日常を周囲の人たちとの関係とともに、しっかり見せていく。はじまりのリズムはここにしっかりと刻み込まれる。生まれてくる赤ちゃんに対して、その子が生きることになる世界をこの芝居はきちんと伝える。その上でこの世界で生きることの喜びをその子と一緒に噛み締めるのだ。

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