習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

劇団てんてこまい『7人の部長』

2013-09-23 07:57:12 | 演劇
 ウイング・フィールドの若手劇団応援企画である「ウイング・カップ2013」開幕である。このシリーズも今回で4回目となる。今年の特徴は参加劇団の平均年齢の若さ。なんと22,3歳という話だ。先日のオープニングである前夜祭に参加してその若々しさに驚く。ウイングの客席を埋めた参加劇団の面々の顔を見ただけで、確かに若いわぁ、と実感できる。それって凄い。まるで今自分はHPF(ハイスクール・プレイ・フェスティバル、ね)の閉幕セレモニーに参加しているのではないか、と思ったほどだ。年寄りくさい言い方だが、若いってそれだけでいいなぁ、と思った。彼らの熱気が伝わってくるようだった。

 最近、若い人を見ても、なんか疲れているなぁ、と思うことが多かったから、あの日のウイングの客席には感動した。なぜ、今年のウイングカップはここまで若返りしたのか。それが、これから上演される7作品にどういう影響を与えるのか。いろんな意味で今まで以上に今年のラインナップは期待出来る。前夜祭で見た7団体のプレゼン作品(5分から10程度の予告編)も、とても刺激的だった。余興ではなく、ちゃんと稽古してこの場に挑んでいる。各団体の意気込みがしっかりと伝わるものだった。

 さて、トップバッターの劇団てんてこまい『7人の部長』である。高校演劇の台本を使って、現役大学生であるかれらが、取り組む劇は、とても誠実で、気持ちのいい青春ドラマだった。ほんの少し前まで高校生だった、という事実を見事に生かしてある。距離の近さがリアルではなく、この素材に説得力を与えることに成功した。それは現役高校生には不可能な距離感だ。純粋であることの傷みがここにはある。これはシチェーションコメディではない。だいたいこのシチュエーションは面白くはない。

 高校のクラブ予算会議に集まった7人の部長たち。ほとんどのクラブは委任状を出して会議には参加しない。だって職員会議で決まった予算をただ伝達するためだけの形骸化されたつまらない会議なのだ。参加した彼らも実はしかたなく来ただけ。だが、そこで一人の部長が異議申し立てしたことから起こる騒動が描かれる。

 この芝居のよさは、ありきたりな芝居だったはずの台本から、「高校生という時間の憂鬱」を引き出したことにある。お膳立てされたことをただこなすだけの退屈。でも、それに何の疑いも抱かない。それが当り前であると思い込んでいる。もちろん目の前の部活動には必死で取り組む。それだけでも充実感はあるけど、はたしてそれだけでいいのか。もっといろんなことに本気になってもいいはずなのだ。なのに、やる前からあきらめている。仕方ない、と思う。頑張っても変わらないからだ。

 この芝居は何かを変えるためのドラマではない。一見すると、何も変わらないことを描くドラマに見える。だが、ここに参加した7人が去っていく時、彼らはほんの少し変わっている。なんだかよくわからないけど、充実感がある。雨上がりの校舎が新鮮に思える。

 ちゃんと高校生活3年間を過ごして、そこからほんの少し距離を置いたこの芝居のメンバーたちは、そのことをよく知っているのだ。だからこの芝居は甘酸っぱくて切ない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『エリジウム』 | トップ | 枡野浩一『ショートソング』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。