ベテラン劇団の芝居を見るのは気が重いのだが、チラシの文章に誘われて見たくなった。そこには「別役のお芝居がこんなにも楽しく、面白いのです。」とある。それをどういうかたちで実現しようというのか、興味津々で見る。
こういう不条理劇を理解するには理詰めで納得していくしかないのだが、そうすると、途中でなんだかわからなくなったり、つじつまが合わなくなってしまい、お手上げにあることもままある。だから、なんとなく笑って見てくれたならいい、という姿勢は正しい。でも、そのうちにヒヤリとしたり、怖いなぁ、と思って、腰が引けてしまったり、衝撃を受ける、それがなんなのか、気になる、自分なりに考える。そんなふうにして楽しめたならそれでいい。
わけのわからない病院にさまよい込み、お見舞いに来たはずの相手もわからず、(彼女は自分の婚約者、らしいというのに)部屋もわからなくなり、ロビーで延々と待ち続けることになる。続々と登場してくる変な患者や医者に看護婦。時間は夜から深夜へ。そして、ようやく彼女のもとへとたどり着くのだが。
迷路の中を彷徨い続けるように、続々と訪れる怪しい人たち、不思議な事態と向き合ったり、もうお手上げだったり、そんなこんなで過ごす時間。お見舞いに来たはずなのに、なぜかここで一夜を過ごす。いつになったら夜が明けるのやら、永遠に続く100年の眠りを共に過ごすように。やがて、彼女は目覚め、その瞬間に死んでいく。それをハッピーエンドと受け止めるのか。
何に導かれて、ここに来たのか。何をここで得ることになったのか。よくわからないけど、この80分の芝居はとても心地よい。気持ちよくこの不気味で不条理なお話を笑い飛ばす。作り手はとてもよく理解している。そのことを押しつけてこない。この芝居を通して、障害者に対する認識を改めようとか、そんな教条的なことは一切言わない。
彼らが何者で、誰が正しくて、誰が間違っているかとか、そんなことわかるわけもない。単一の価値観を押しつけることなく、そのままを受け入れて貰おうという姿勢がいい。そんなメッセージがちゃんと伝わってくるからこの芝居は気持ちがいいのだろう。別役実の世界をしっかり受け止めて表現できている。