時代は1970年代初め、怒濤の時代。だが、芝居はそんな時代から隔離された老人ホームを舞台にして、老い先短い老人たちの戦いが静かに描かれる。2部構成3時間に及ぶ大作である。春から始まり、夏の盛りまで、約半年間のお話なのだが、ラストではなんと30年後21世紀に突入する。語り部である女性のモノローグで幕を閉じる、ということだ。しかし、そこにはドラマチックな展開はない。エピローグは変わることのない彼らの時間がそこにはある、ということを提示する。半年間と30年は等価なのだ。
これは老いと向き合い、今日一日を必死に生きる人たちの群像劇だ。それぞれが今の自分と向き合うことすら困難な中で、なんとか自分を保ち続けるために、必死になっている姿が、一見穏やかな楽園での日々での出来事として描かれてある。認知症を患い、ついさっきにことすら忘れてしまうのに、それでも生きなくてはならない。家族と離れて、ホームで他人と過ごす不安な日々。その繰り返し。ホームの職員は一生懸命に世話をしてくれるけど、それだけでは満たされない。
孤独と向き合い、人生の終着駅で過ごす穏やかな時間の中に或る葛藤、苦しみ、ささやかな喜び。ここに登場するたくさんの男女のそれぞれのドラマを積み重ねていくことで、その先に、生きることに対する答えがある。これは現役シニア世代がリアルに贈るファンタジーである。
シニア演劇大学の公演としてこういう作品を取り上げ、堂々たる作品に仕立て上げた。そんな彼らのバイタリティには感心させられる。老いてなお果敢に「何か」に挑戦し続ける。そんな人たちが芝居を、演劇を支える時代がもうそこまで来ている。若い人たちは彼らからいろんなことを学べるだろう。なんだかすごい時代がやってきた。