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映画・演劇のレビュー

『アイミタガイ』

2024-11-01 17:35:43 | 映画

大好きな草野翔吾監督の新作である。これもまたいつものように小さな映画だけど、彼のこだわりがしっかり詰まった作品になっている。黒木華というキャスティングからして渋い。彼女を主人公に持ってきて、女の子同士の友情を描く。前作『彼女が好きなものは』では同性愛者の男の子と、異性愛者の女子の恋愛未満の友情を描いた。今回は死んでしまった親友との友情を描く。原作は短編連作みたいだ。映画も黒木華を中心にして彼女の周囲のさまざまな人たちのお話になっている。

エンドクレジットで市井昌秀監督と、2020年に他界した佐々部清監督の名前が出た時、思わず涙が溢れた。これは佐々部監督が温めていた企画なのだと知る。大好きな3人の監督による作品だったのか、とわかった瞬間、胸がいっぱいになった。亡くなった佐々部監督の想いを抱いてまだ若い草野監督がこの映画を大切に、丁寧に作った。彼らの想いがしっかり伝わってくる佳作である。

事故で亡くなった親友(藤間爽子)のことを忘れられないまま毎日を生きる。葬儀には行けなかった。行かなかった。認めたくない。だから、今も彼女のスマホにLINEからメールを送り続ける。今日あったこと、伝えたい想い。虐めに遭っていた中学生の頃、彼女に助けられた。それからずっと一緒だった。唯一絶対的な最強の友だち。

恋人(中村蒼)は優しい。だけど結婚には踏み切れない。今も幼い頃の両親の離婚を引きずっているからだ。ウエディングプランナーをしている。たくさんのお客さまの幸せをお手伝いしているけど、自分が幸せになれると信じられない。時々、おばあちゃん(風吹ジュン)家に行く。在宅介護の仕事をしている叔母(安藤玉恵)と彼女がお世話している93歳のおばあさん(草笛光子)との関わり。さらには親友の両親(田口トモロヲ、西田尚美)の話。さまざまなエピソードが運命的に絡み合って105分の映画になる。そして彼女は新しい一歩を踏み出すことになる。

この小さな静かな映画は、悲しみの先にある幸せを描くことで、僕たちに(たくさんの人たちに!)生きる勇気を与えてくれる。さっきは遠慮して佳作と書いたけど、これは素晴らしい傑作である。


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